六平太、付添い屋を再開! 人情時代劇小説、新章開幕
小学館文庫から刊行された、金子成人(かねこなりと)さんの書き下ろし時代小説、『付添い屋・六平太 姑獲鳥の巻 女医者』を紹介します。
鼠小僧次郎吉処刑の翌年、天保四年は全国的な凶作のうえ、江戸市中では刃傷沙汰が多発し、殺伐とした空気が漂っていた。秋月六平太は恩師に乞われ、相良道場の師範代として多忙な生活を送っていたが、堅実な暮らしに少しばかり飽きも感じていた。
ある日、馴染みの材木商母娘に誘われた船遊びで破落戸の喧嘩を諌めたことをきっかけに、妹佐和の進言もあって付添い屋稼業を再開する。命を狙われる女医者や傲慢な天才棋士の付添いを務めた六平太の帰りを待っていたのは、匕首を持った男たちだった……。
TV時代劇「御家人斬九郎」や「剣客商売」の名脚本家の金子成人さんの、大人気の時代小説「付添い屋・六平太」シリーズの第11作です。
付添い屋とは、裕福な商家の子女が花見や芝居見物に出かける際に、案内と警護を担う侍のことで、シリーズの主人公秋月六平太は、かつて付添い屋を生業としていました。
天保四年(一八三三)三月。
秋月六平太は浮草稼業で生活が不安定な付添い屋を辞めて、四谷の相良道場の師範代として剣を教えて生計を立てていました。
懇意にしている木場の材木商『飛騨屋』の母娘に誘われて出掛けた船遊び先で、破落戸の喧嘩に巻き込まれて撃退しました。ところが、噂を聞いた口入れ屋『もみじ屋』の忠七から、隠れて付添い屋をしていたのかと詰られてしまいます。
妹の佐和にも『もみじ屋』に誠意を示すべきと言われて、師範代を辞めて、付添い屋を再開することなりました。
「もう、お店奉公はしたくありません」
穏蔵が、俯いたまま返事をした。
「したくないったって」
「わたしには、無理です」
六平太の言葉を遮るように穏蔵が言い放った。(『付添い屋・六平太 姑獲鳥の巻 女医者』「第一話 春雷」P.48より)
十五歳になり、八王子で養蚕を業としている養父豊松の伝手で、今年一月から日本橋の絹問屋に住み込みで奉公をしていた穏蔵(おんぞう)でしたが、日本橋での仕事や暮らしが合わずに店から逃げ出してきました。
六平太は、無頼な生活を送っていた時代にできた子で、養子に出した穏蔵の将来に不安を覚えます……。
かつ枝の足が、家の板塀の前でぱたりと止まった。
奇妙な絵の描かれた紙が三枚、板塀に貼られていた。
一枚は見えなかったが、他の一枚には毛深い獣のようなものが描かれ、胴体にも眼のある奇妙な図柄で、もう一枚には乳呑み児を抱えて長い髪を振り乱した女の姿が見えた。
顔を強張らせたかつ枝が、急ぎ紙を剥ぎ取ると、木戸の中に駆け込んだ。
(『付添い屋・六平太 姑獲鳥の巻 女医者』「第二話 女医者」P.93より)
付添い屋を再開した六平太に、中条流の女医者かつ枝に付添う仕事が舞い込みました。
かつ枝の家の板塀に貼られた絵は、妖怪の白澤(はくたく)と、姑獲鳥(うぶめ)でした。
六平太は、出産に関わる中条流の医者と姑獲鳥の因縁が気になる一方で、森田座の役者、河原崎源之助が行方不明になっているという話を聞き込みます……。
「付添いをしてもらいたいのは、棋士の平岡宗雨でした」
そう口を開いて、勘兵衛はさらに続けた。
宗雨というのは、勘兵衛が贔屓にしている若手の棋士だった。
四月七日の、伊藤南仙との対局を前に、宗雨の身の安全を図りたいのだと口にした。
(『付添い屋・六平太 姑獲鳥の巻 女医者』「第三話 鬼の棋譜」P.155より)
六平太は、芝の材木商『出羽屋』の主、勘兵衛から、贔屓にしている若手棋士平岡宗雨の付添いを依頼されます……。
江戸の将棋の世界は、大橋家、伊藤家、大橋分家の三名家を中心に回り、その血筋しか名人位に昇れない決まりごとがありました。二十歳の宗雨は、そんなしきたりに風穴を開けると期待される天才棋士でしたが、態度が傲慢無礼と評判はよくなく、やっかみも多い人物でした。
「第四話 一両損」は、灰買いの女お国が集めた灰の中から高価な菩薩像が出てきた騒動を描くミステリータッチのお話です。
四話収録されている一話ずつにユニークな事件が描かれて、連作を通して読むことで登場人物たちに関わる一連の物語となってます。目の前に情景がぱっと浮かび、そのまま時代劇化できそうな、このシリーズのもつ美質を今回も堪能できました。
◎書誌データ
『付添い屋・六平太 姑獲鳥の巻 女医者』
出版:小学館・小学館文庫
著者:金子成人
カバーデザイン:山田満明
カバーイラスト:村上もとか
第1刷発行:2018年9月11日
600円+税
285ページ
文庫書き下ろし
●目次
第一話 春雷
第二話 女医者
第三話 鬼の棋譜
第四話 一両損
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『付添い屋・六平太 姑獲鳥の巻 女医者』(金子成人・小学館文庫)(第11作)
『付添い屋・六平太 龍の巻 留め女』(金子成人・小学館文庫)(第1作)