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飛行船月光号殺人事件 謎ニモマケズ

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空飛ぶ密室、飛行船で起きた連続殺人の謎を宮沢賢治が解く

飛行船月光号殺人事件 謎ニモマケズ鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし冒険ミステリー小説、『飛行船月光号殺人事件 謎ニモマケズ』が祥伝社文庫より刊行されました。

『謎ニモマケズ 名探偵・宮沢賢治』に続く、若き日の宮沢賢治を探偵役に据えた冒険ミステリーの第2弾です。

父親の伝手で、本邦初の大型旅客飛行船・月光号の記念飛行に招待された宮沢賢治。飛行船好きの賢治は、医者を目指す美しい乗客・最勝寺薫子と出会い、空の旅に心躍らせる。
そんななか、乗客の一色子爵が、血まみれとなって自室で発見された。しかし、それは月光号で始まる惨劇の序章に過ぎなかった……。

大正後期の出来事を描いた前作より時間は下り、「昭和モダン小夜曲(セレナーデ)」と帯に入っているように、昭和五年(1930)の五月が舞台となります。

賢治も十ばかり歳を重ねて、その博覧強記と推理力に磨きがかかっています。

「最勝寺さんは、お医者さまですか?」
「え? どうして?」
薫子は大きな目をさらに見開いて、賢治の瞳を真っ直ぐに見つめた。薫子の瞳は警戒心を通り越して、怖れの感情をあらわしていた。
(当たったか……でも、年齢から推測すると、研修医かな)
「『ジャパン・アドヴァタイザー』を読むような英語の力をお持ちで、手の指にヨード焼けがあるから、お医者さまかなと考えたのです」

(『飛行船月光号殺人事件 謎ニモマケズ』P.21より)

賢治は同じく月光号記念飛行に招待された最勝寺薫子との出会いのシーンで、シャーロック・ホームズばりの推理力を披露します。

「本日は月光号にご搭乗頂き、ありがとうございます。船長の滝野です。今回の空の旅は途上の天候も安定が見込まれます。また、今夜は本船の処女飛行を祝うにふさわしい満月が期待できます。どうぞ皆さま、本邦初となります本州最南端の桜島上空まで往復の二十六時間を存分にお楽しみ下さい」

(『飛行船月光号殺人事件 謎ニモマケズ』P.55より)

本書の最大の魅力は、ツェッペリン伯爵号によって日本中を熱狂させた飛行船ブームに刺激を受けて設立された太平洋航空会社の旅客飛行船、月光号の存在です。

白鯨や大きなレンズ雲を想起させる、全長二百メートルを超える巨大な船体。マイバッハ社製の十二気筒エンジンを5基搭載し、出力五百三十馬力で、巡航速度は六十ノット弱、時速百十キロで、当時の夢の乗り物です。しかも、室内は豪華客船と見紛うばかり。すっかり魅せらえました。

月光号には、宮沢賢治のほかに、十六人の乗客が搭乗します。

最勝寺薫子:帝國女子医学専門学校の四年生
市川夏彦:成都新聞社会部記者
藤吉直四郎:霞ヶ浦航空隊飛行船隊長(少佐)
柏木雄三:逓信省航空局書記官
鷹庭芳成:地面師
一色範定:子爵
森本紘平:ハネムーン中の男
森本芳枝:紘平の妻
佐和橋可那子:歌手
仲里玄二郎:元順天堂医院薬事部長(博士)
仲里八重:玄二郎の妻
堂元成道(どうもとじょうどう):実業家
川島泰造:九段の開業医(内科医)で堂元の主治医
ロバート・ワイズマン:合衆国大使館スタッフ
エヴァ・ワイズマン:ロバートの妻
中村伝七郎:歌舞伎役者

アガサ・クリスティーの『オリエント急行の殺人』を想起させるような舞台設定です。
処女飛行を楽しむはずが、乗客の一人、一色子爵が血まみれとなって自室で発見されます。
死体の傍らには、タロットカードと白い封筒が置かれ、封筒には『密通ノ罪・ハーデース』と和文タイプされた一枚の白い便せんが入っていました。

「船長、これは斬奸状ですね。一色さんの罪を問うているわけでしょう」
「なるほど、密通ノ罪と書いてありますからね。宮沢さまは一色子爵に恨みを持つ者の犯行とお考えなんですか」
「そうとしか思えません。書いてある内容が事実かどうかわかりませんが、少なくとも自分も女房を寝取られた男が犯人である可能性はあり得ますね」

(『飛行船月光号殺人事件 謎ニモマケズ』P.139より)

名探偵の宮沢賢治が始動しますが、飛行船内では第二、第三の事件が起こります。

空飛ぶ密室、豪華飛行船で起こった殺人事件、犯人は外から侵入することができず、外へ逃げることもできません。この密室の謎を賢治は解けるでしょうか?

本格的な推理小説として楽しめるばかりでなく、モボやモガといった昭和初期のファッションやジャズなど昭和モダンという言葉で代表される、昭和初期の時代の雰囲気が堪能できました。

◎書誌データ
『飛行船月光号殺人事件 謎ニモマケズ』
出版:祥伝社・祥伝社文庫
書き下ろし
著者:鳴神響一

カバーデザイン:bookwall
カバーイラスト:中村至宏

発行:2018年7月20日
800円+税
467ページ

●目次
序 十三夜に煉獄を見た男
第一章 飛行船月光号、清風に飛び立つ
第二章 月に群雲、花には嵐
第三章 月を指せば指を認む
第四章 月満つれば欠けるが如し
第五章 月の前に一夜の友
第六章 巨船、夕闇に降り立つ
終 薫風過ぎゆく朝に

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『飛行船月光号殺人事件 謎ニモマケズ』(鳴神響一・祥伝社文庫)
『謎ニモマケズ 名探偵・宮沢賢治』(鳴神響一・祥伝社文庫)