誉田龍一さんの文庫書き下ろし時代小説、『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、父になる』(双葉文庫・刊)を紹介します。
ひょんなことから、刀林寺の居候になった三好小次郎は、住職・諾庵がやっていた手習い所「長楽堂」の師匠を引き受けることになりました。
以来、人情味がたっぷりというか過剰で、すぐに感動して涙を流してしまう、泣き虫先生の小次郎の周りには騒動が絶えません。
本書は、そんな泣き虫先生が巻き込まれ、解決する珍騒動の数々を描いた「手習い所 純情控帳」シリーズの第4弾です。
三好小次郎が師匠をつとめる手習い所「長楽堂」に、山伏の善海坊が二人の子どもを連れてやって来た。二人の親は結垣藩の御用商人で、江戸に来て商いをしていたが、ある日突然、両親が姿を消してしまったので、しばらく預かってほしいという。
二人の境遇に同情した小次郎は、刀林寺に住まわせることにするが、二人はお供え物を盗んだり、近所の饅頭屋から饅頭を盗むなど、悪さばかりして小次郎を困らせる。
小次郎が行方不明になった両親の代わりをつとめながら、その行方を追う表題作のほか、諾庵が流行り病にかかり、小次郎が治そうと薬を求めて奔走する話など、全四話を収録しています。
お蘭はぺこっと挨拶した。
小次郎は鉄五郎を前に押し出した。
「実は、また鉄五郎さんが餌代を払いたいらしくてな」
「うわ~、それは嬉しいでーす。ちょうど、お金がなくなりかけてまーした」
お蘭の家には、犬、猫、鳥、兎など、さまざまな動物が住んでいる。
その餌代に、お蘭はいつも困っていたのだ。(『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、父になる』P.59より)
小次郎は、南町奉行所同心の小山鉄五郎の財布を当てにして、動物と会話することができるお蘭の力を借りて、誰かにかどわかされた疑いのある、子どもたちの両親の探索をします。
小次郎は、手習い所の教え子をはじめ、誰にでも優しくて親切なのですが、子どもの頃、長楽堂の手習いに通っていたことがあり、いまだに長楽堂に入り浸っている、鉄五郎に対してはなぜかいつもちょっと意地悪です。そのやり取りが何ともおかしくて、物語でアクセントになっています。強面ながら、小次郎以上に純情で人情味ある鉄五郎は魅力的なキャラクターの一人です。
「第二章 小次郎、同心になる」では、大目付秘蔵の香炉を盗まれて警備を担当していた南町奉行所同心・小山鉄五郎が窮地に陥ります。鉄五郎を救うために、小次郎が事件の謎解きに挑みます。
「第四章 小次郎、悪を成敗する」では、小次郎がかつて所属していた結垣藩(ゆいがきはん)の御家騒動が描かれています。小次郎はいかに旧藩の窮地を救えるのか、ワクワクしながらページを繰る手に力が入ります。
◎書誌データ
『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、父になる』
著者:誉田龍一
カバーイラストレーション:柴田ゆう
カバーデザイン:長田年伸
出版:双葉社・双葉文庫
第1刷発行:2018年2月18日
611円+税
286ページ
●目次
第一章 小次郎、父になる
第二章 小次郎、同心になる
第三章 小次郎、病を治す
第四章 小次郎、悪を成敗する
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『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、江戸にあらわる』(誉田龍一・双葉文庫)第1弾
『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、幽霊を退治する』(誉田龍一・双葉文庫)第2弾
『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、棒手振りになる』(誉田龍一・双葉文庫)第3弾
『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、父になる』(誉田龍一・双葉文庫)第4弾