山田剛(やまだたけし)さんの『巡見使新九郎 無双の拝領剣 将軍の夢』がコスミック・時代文庫から刊行されました。
「巡見使として余の名代となり、諸国を巡って来てくれ」
将軍吉宗直々の命を受けた稲生新九郎は、改革の成果を見定めたいという願いを叶えるべく、江戸を出立。気品あるいで立ちで凛としてたたずむ旅装の新九郎は、御庭番の川村源右衛門、忍びの篝、三浦左平次の三人を供に従えて、中山道を信州諏訪に向かった……。
「〇〇さんって、時代劇のサイトをやっているんですよね?」
と時折、知人から声を掛けられることがあります。その都度、「時代小説のほうなんですよ」とやんわりと訂正しています。
時代劇は嫌いではなく見る方だと思いますが、そこまで範囲を広げる余裕がないのが正直なところです。
さて、本書は、将軍吉宗のご落胤で、目付から北町奉行になった稲生下野守の次男として育てられた、新九郎が主人公を務める時代小説です。
新九郎は、人の真を最後まで信じようとする男ながら、一分の真も持ち合わせぬ邪悪には、怒りの剣を振るいます。吉宗から拝領した備前国の名刀、小龍景光(こりゅうかげみつ)を手に。
貴種の若者が高位に就いている父に、公には裁けない市井の悪を私的に退治する勧善懲悪のストーリーで、痛快で人情味あふれる物語は古き良き時代劇に通じる醍醐味があります。
『巡見使新九郎 無双の拝領剣』に続く、第2巻では、新九郎はまず信州の高遠内藤家を訪れます。ここで、江島生島事件で高遠に流された元大奥年寄江島に会います。
事件で江島の動向を詮索していたのが、当時目付の稲生(新九郎の父)だったことから、新九郎の胸の裡には葛藤がありました。
高遠を訪れる十日余り前に、新九郎の姿は信州諏訪家の城下にありました。
諏訪家は、諏訪湖のほとりに建つ高島城を居城にする、譜代三万石。当主は諏訪因幡守忠林で三十四歳、学才豊かな藩主として知られていました。
城は、本丸、二之丸、三之丸が一直線状に並んでいる。
天守をはじめ主要な建物の屋根は、瓦葺きではなく珍しい杮葺きである。
本丸の東側と南側いは武家屋敷が広がり、その武家屋敷をはさんでひっそりとたたずむのが南之丸である。
この時代、諏訪は流刑の地で、その南之丸は流された者を幽閉する場所だった。
古くは、徳川家康の六男、松平忠輝が、近くは浅野浪人に討ち取られた吉良上野介義央の外孫でのちに養嗣子となった吉良左兵衛義周が幽閉された。
(『巡見使新九郎 無双の拝領剣 将軍の夢』P.29)
新九郎は、この諏訪で富くじを巡る悪事を解決し高遠で江島に会います。その後、伊勢神宮を目指して、伊那街道、飯田街道を経て、東海道を西に向かいます。
次の活躍の場が伊勢亀山城下です。
物語に描かれている当時の伊勢亀山の城主は、譜代五万石、板倉周防守勝澄で十八歳。
ここでの事件には老人介護の問題や猟奇趣味などが背景に描かれます。
本書が時代劇と違う面白さは、史実や時代考証、舞台の説明を丁寧に織り交ぜている点にあります。その地で起こる悪事も、絵空事ではなく、現代に通じるようなリアリティがあって、物語に引き込まれます。
◎書誌データ
『巡見使新九郎 無双の拝領剣 将軍の夢』
著者:山田剛
コスミック出版・コスミック・時代文庫
初版発行:2018年2月25日
ISBN978-4-7747-1408-0
カバーイラスト:浅野隆広
335ページ
●目次
序章 面影
第一話 一徹同心
第二話 だまし舟
第三話 黒編笠の刺客
終章 若鷹のごとく
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『巡見使新九郎 無双の拝領剣』(第1作)(山田剛・コスミック・時代文庫)
『巡見使新九郎 無双の拝領剣 将軍の夢』(第2作)(山田剛・コスミック・時代文庫)