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維新の先駆け、中山忠光と天誅組の四十日間の光跡を描く

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志士の峠植松三十里(うえまつみどり)さんの歴史時代小説、『志士の峠』(中公文庫)を紹介します。

文久三年(一八六三)、帝の行幸の先ぶれを命じられた公家・中山忠光は、勤王志士らと大和で挙兵した。五条の代官所を襲撃し新政府樹立を宣言するが、親幕派の公家や薩摩藩などにより一転、朝敵とされ討伐軍を差し向けられる。満身創痍で深き山々を駆ける志士たちの運命は!?

勤王を掲げて挙兵し、明治維新の先駆けとなった幕末の「天誅組」の激闘を描いた歴史長編です。

天誅組の総大将となるのは、尊王攘夷派の公家・中山忠能(なかやまただやす)の七男・忠光(ただみつ)。
忠光の姉の慶子は、禁裏の典侍を務め、帝(孝明天皇)の寵愛も深く、後に明治天皇となる祐宮(さちのみや)を産んでいます。

つまり、明治天皇と忠光は、甥と叔父の関係になります。

 池は風呂敷包みを、自分の背中に斜めがけにした。
「だいいち御前が、こんなのを斜めに担いでたら、まっこと鬼ヶ島に征伐に行く桃太郎のようじゃ」
 吉村が吹き出した。
「そう言うたら、絵双紙に出てくる桃太郎じゃ。さしずめ、わしは犬で、池が猿やな。いや、池は雉か」
 忠光は不満顔で聞いた。
「どこが桃太郎や」
 池が声を大にして、得意げに言う。
「これから鬼退治やのうて、五条の悪代官退治ぜよ」
(『志士の峠』P.19より)

忠光は、土佐脱藩浪士の吉村寅太郎と池内蔵太(いけくらた)らと鬼ヶ島退治感覚で、帝の大和行幸の御先鋒隊の先駆けとして挙兵します。

希望に満ちた若者らしい激烈な行動で、五条代官所を襲撃し、翌日には五条新政府を打ち立てます。
その忠光のもとに都から使者がやってきます。政変が起こり、大和行幸が無期延期となり、資金を提供していた長州藩も都を追われるという。

御先鋒隊の先駆けから一変して朝敵に。忠光らは天誅組に名乗りを変えて、勤王の志の強い地域を目指します。

 忠光は立ち上がると、また隊士たちに語りかけた。
「きっと私は逃げ切って、天誅組の正義を世に知らしめる。私だけやのうて、ひとりでも多く、命を存えてくれ。生き残った者たちで、次こそ挙兵を成功させて、新しい世の中を作ろう。せやから、もう少しの間だけ、誇り高き天誅組の大将を、私に務めさしてくれ」
(『志士の峠』P.262より)

大和の山間部を貫く西熊野街道から東熊野街道を逃走し、天辻峠、伯母峰峠、竹内峠など峠を越えていく志士たち。

歴史の持つ非情さに翻弄されながらも、理想を貫こうと気高く生きる忠光ら天誅組の若者たちの姿に胸が熱くなります。

◎書誌データ
『志士の峠』
著者:植松三十里
中央公論新社・中公文庫
初版発行:2017年12月25日
(単行本『志士の峠』2015年4月 中央公論新社刊)

カバーイラスト:ヤマモトマサアキ
カバーデザイン:中央公論新社デザイン室
解説:細谷正充

●目次
第一章 鐘、鳴り響く
第二章 五条新政府
第三章 天ノ川辻にて
第四章 十津川郷士参上
第五章 高取城夜襲
第六章 白銀岳本陣
第七章 木枯らし吹く
第八章 伯母峰峠越え
第九章 最終決戦の地
第十章 逃走の果てに
解説 細谷正充

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『志士の峠』(植松三十里・中公文庫)