2017年12月21日から12月31日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年12月の新刊 下」を掲載しました。
今回注目しているのが、角川文庫から刊行される、安部龍太郎さんの『維新の肖像』です。
明治維新そのものが持つ思想と制度の欠陥に根本原因があるのではないか――1932年、イェール大学で歴史学を研究する朝河貫一は、日露戦争後から軍国主義に傾倒していく日本を憂えていた。
そのとき、亡父から託された柳行李を思い出す。中に入っていたのは、二本松藩士として戊辰戦争を戦った父・朝河正澄が残した手記だった。貫一はそれをもとに、破滅への道を転げ落ちていく日本の病根を見出そうとする……。
貫一は、日本の軍国主義を憂え、「このままではやがて米国と戦争になる」と、政府や言論界の要人に手紙を送り警告をします。しかし、耳を貸そうとする者はおらず、その想いは故国に届きません。
歴史学者として、無力さに苛まれる日々を送っていたある日、亡き父が残した手記と資料をもとに父を主人公にした小説を書きはじめます。
物語は、二本松藩士として戊辰戦争を戦った父と、太平洋戦争へと突き進む祖国に警鐘を鳴らし続ける子、二人の生き様をドラマチックに描き、明治維新以降、日本人が失ったものをあぶり出していきます。
単行本刊行時に感銘を受けた物語を、文庫化を機に読み返してみたいと思います。
主人公の朝河貫一は、実在の歴史学者で、平和の提唱者であり、キュレーター(博物館や図書館など施設の収集する資料に関する鑑定や研究を行い、学術的専門知識をもって業務の管理監督)としての業績がもありました。
第二次世界大戦中、戦後もアメリカに滞在しましたが、終生、日本国籍のままで、日本人としてのアイデンティティーを大事にした国際人です。
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『維新の肖像』(安部龍太郎・角川文庫)