書評家の、大矢博子さんの『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』が文春文庫より刊行されました。
傑作や名作時代小説を100作品選んで紹介するガイドブックは、これまでにも刊行されてきましたが、1冊(約300ページ)でここまで多くの作品を紹介しているものは初めて。
本書で紹介している作家は176人、取り上げた歴史・時代小説はなんと488作!
あの名作もこの傑作も取り上げてくれています。
このガイドは一冊一冊の作品については深掘りはしません。
しかし、取り上げている作品数が尋常な数ではないので、面白本へのヒット率が高いです。
自分が読んだ小説の面白さに共感したり。あの本は読んだが、同じテーマのこっちの本は読んでいなかったと気づかせてくれて、読み逃していた面白本を発見したり。ファンには至福の時が過ごせるブックガイドです。
これだけ歴史・時代小説が溢れていると、もういったいどれから手をつければいいのやら。せっかく多くの小説が出ているのですから、どうせなら楽しみたい。楽しむためには最初の一冊との出会いが大事なのはもちろんですが、実はそれより大事なことがあります。「次の一冊」との出会いです。
(『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』P.8「はじめに」より)
本書の魅力は、多くの傑作時代小説を取り上げているばかりではありません。
「栗のままの姿見せるのよ ~和菓子を味わう職人小説」「豆は夜更け過ぎに餅へと変わるだろう ~旧暦新暦大混乱」「YOUは何しに関ヶ原へ? ~小早川秀秋の裏切り」など。
各章にはシャレが利いたタイトルが付いていて、TVの前で好き勝手なことを言っているような語り口は何とも楽しく、ウンウンとうなずいたり、思わずニヤリとしたり、激しく共感できます。
このブックガイドの最大の特長は、「読みくらべ」です。
一つのテーマで、複数の小説を紹介し、読みくらべていきます。
この方法なら、一冊の本から次の一冊に芋づる式に読みたい本が見つかります。
たとえば、「三国な戦士のテーゼ ~『三国志』冒頭読み比べ」の章では、吉川英治『三国志』を基本テキストに、ハードボイルドな北方謙三『三国志』と史実重視の宮城谷昌光『三国志』、解説が親切な陳舜臣『秘本三国志』を比べていきます。
全巻読むのは大変ですが、それぞれ1巻目の特長を紹介することで、自分がどれから読み始めたらよいかわかります。
黄巾の乱の鎮圧で活躍した劉備が地方の警察署長となったときのエピソードの同じ場面を読み比べる試みも楽しいです。
誰もが挙げる名作や文学賞受賞作、ベスト10作品ばかりでなく、隠れた傑作も数多く登場します。
「次の一冊」との素敵な出会いを期待する方におすすめのガイドブックです。
文藝春秋「本の話WEB」に、2014年10月から2016年12月まで連載した原稿を、ほぼ別物となるぐらいに大幅に加筆・再構成したものです。
(「本の話WEB」は2017年1月25日をもって「文春オンライン」になりました)
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『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』
『三国志 (1)』(吉川英治・吉川英治歴史時代文庫)
『三国志 (1の巻)』(北方謙三・ハルキ文庫)
『三国志〈第1巻〉』(宮城谷昌光・文春文庫)
『秘本三国志〈1〉』Kindle版(陳舜臣・文春文庫)