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天皇・摂関家、将軍、大名まで。「相続」の視点から歴史を読み解く

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相続の日本史歴史家の安藤優一郎さんの『相続の日本史』(日経プレミアシリーズ)は、相続を支配する者が歴史を動かした、という新たな視点から日本の歴史を読み解く歴史読み物です。

 日本の歴史を振り返ってみると、相続争いが歴史を動かし、歴史を変える最大の要因であることは論を俟たない。
 国のトップの相続問題、つまり跡目争いとなれば国内は大きく揺れる。話し合いがまとまらず、戦争という形で決着が付けられた事例は枚挙に暇がない。内覧にまで発展する事例も少なくなかった。

(中略)

 中世に京都を戦場として起きた応仁・文明の乱では、将軍職や守護大名家の家督争いが複雑に絡み合った結果、大名たちは東軍と西軍の二つに分かれた。戦場は京都以外にも広がり、戦国時代へのレールを敷く戦となった。
(『相続の日本史』P,13「まえがき 誰が何が相続者を決めるのか」より)

本書では、相続争いを切り口に日本の歴史を眺めることで、相続のルールがどのように形成されて、歴史がどのように変わっていったかを解き明かします。

第1章「兄弟から父子直系の相続へ~古代から南北朝の時代まで」では、古代から中世にかけての天皇位をめぐる争いにスポットを当てます。天皇の生前譲位の事例が生まれて太上天皇(上皇)が登場することで、相続争いは複雑化していきます。

第2章「将軍職の継承は誰が決めたのか~朝廷と幕府の微妙な関係」では、天皇(朝廷)から政務を委任された約四十人の将軍たちを事例に、将軍自身が後継者を決めることが少なかったことに注目します。

第3章「大名の家督相続を決めたのは誰か~将軍の介入」では、大名たちの相続争いに、将軍が介入して、自身の権力基盤を固め、その過程で大名家の相続ルールを醸成していったことを明らかにします。

第4章「女性も家督を相続した時代があった~天皇から戦国大名まで」では、女性が家督を相続するに至った当時の政治・社会的な背景を解明します。女性天皇や尼将軍北条政子、井伊直虎、将軍吉宗を誕生させた天英院、篤姫まで登場します。

第5章「将軍代替わりごとに所領相続が保証された~徳川家の御墨付け」では、将軍が大名や公家・寺社に発給した五千通にも及ぶ領知朱印状を取り上げます。
埼玉県日高市に鎮座する高麗神社(こまじんじゃ)に残された朱印改に関する史料を通して、所領相続の裏側を詳細に紹介されていて、たいへんな労力と費用がかかっていたことがわかります。

天皇の生前譲位、女性天皇、井伊直虎など、旬のキーワードも盛り込まれていて、興味深く読み進めることができます。古代から江戸時代まで権力基盤と相続争いを通して、歴史を読み解くことができる好著です。

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『相続の日本史』