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南町奉行所のコロンボ。見破り同心の推理が冴える

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見破り同心 天霧三之助誉田龍一(ほんだりゅういち)さんの文庫書き下ろし時代小説、『見破り同心 天霧三之助』が徳間文庫から刊行されました。

本書は、ミステリーで倒叙(とうじょ)ものといわれるスタイルを取った捕物小説です。
まず、最初に犯人が殺人などを犯し、それが成功したかに見えた時点で、今度は逆に警察や探偵の側が捜査を開始して、犯行を暴き、事件を解決するというもので、ストーリー展開が普通のミステリーと逆のために、倒叙と呼ばれています。
テレビドラマの『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』が有名です。

質屋の三浦屋六兵衛が、離れで出刃包丁により惨殺された。三浦屋にとっては、娘・佐代が旗本の嫡男小屋敷多聞との婚礼を間近に控えた折の惨事だった。
南町奉行所臨時廻り同心、天霧三之助(あまぎりさんのすけ)は、同僚で定町廻り同心の結城栄二郎と探索に乗り出す。六兵衛の亡骸の不自然さに気付いた三之助は、下手人像を絞り込み追い込んでいく。
だが、そんなさなかに、六兵衛が死んだ同じ離れで第二の殺しが起きた……。

さて、『見破り同心 天霧三之助』に話を移しましょう。

主人公の天霧三之助は、「体つきもそうだが、顔も細長く、馬面とはかくあるべしという面構え」で、「長い顔に、小さな目、そして長い鼻、更に厚ぼったい唇が載ってい」て、「穴子のようだ」と陰口をたたかれています。

剣術はからきし駄目で、町廻りも怠ける、はた迷惑な男ですが、一つだけ頭抜けた才を持っています。
今まだ担当した数多くの事件で、下手人がつく嘘や罠を見破り必ず捕縛してきました。それゆえ、いつしか奉行所内では、「見破り三之助」と呼ばれるようになっています。

「どう思いますか」
「どうとは、どういうことだ」
「いや、ですから、その傷をどう思うかです」
 多聞は首を捻った。
「言っていることがよく解せぬが」
「いや、だって先ほどは鋭いことおっしゃったじゃないですか。傷口の太さから出刃包丁だって」
「そうだったな」
「でも、この傷はどうでしょうか」
「どうだろうな」
「あれ、よく見えませんでしたか。もう一度お見せしましょうかね」
(『見破り同心 天霧三之助』P.73より)

まさに、刑事コロンボといったところで、操作方法も、コロンボのように、あの手この手で下手人を追い詰めていきます。丁々発止のやり取りが見どころのひとつです。

剣術も体術も奉行所内で一、二を争う腕前で外見もいいが、推理下手な栄二郎との組み合わせが絶妙です。三之助の推理の冴えの引立て役となっています。
二人に、栄二郎の姉で、八丁堀小町といわれた美貌を持ちながら、気の強さから出戻ってきたお光を加えた、やり取りが面白く自然と笑みがこぼれます。

倒叙ものという難しいミステリー形式を取りながら、緊張感とユーモアをもって最後のページまで一気に読ませてくれる、楽しみな捕物シリーズが誕生しました。

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『見破り同心 天霧三之助』