田牧大和(たまきやまと)さんの文庫オリジナル時代小説、『鯖猫長屋ふしぎ草紙(二)』がPHP文芸文庫から刊行されました。
鯖縞模様の三毛猫サバが一番いばっている「鯖猫長屋」が、住人が減って存続の危機に! そんな折、団扇売りを生業にする色男・涼太が、長屋に引っ越してくる。どうやらそこには、サバが一枚噛んでいるらしい。
一方、「黒ひょっとこ」の異名を持つ元盗人で、サバの飼い主である画描きの青井亭拾楽にも怪しい影が近づく。折しも、巷には「黒ひょっとこ」を名乗る義賊が現れる……。
江戸・根津門前町の堀を挟んだ南、宮永町の長屋で巻き起こる事件を、人情味豊かに描く「鯖猫長屋」シリーズの第2弾です。
シリーズの魅力は、珍しい雄の三毛猫で、猫の目も人の目も引く美猫ぶりが際立ったサバの存在。
詰めかけた祭見物の人の重みで永代橋が崩落した日、祭見物に出かけようとしていた長屋のおてる夫婦を止めて、命を救ったこともあり、男前な上に、不思議な賢さと妙な迫力が備わっていて、「大将」と呼ばれ、長屋で一番偉い存在になっています。
その飼い主の拾楽は、「黒ひょっとこ」の異名をもつ義賊だったが、今は足を洗い画描きをしています。
長屋の面々も個性的です。
長屋を仕切るお節介な女房おてるとその亭主で大工の与六。拾楽にぞっこんで働き者の娘おはま、その兄で魚屋の貫八。野菜の振り売りの蓑吉、小間物の行商をする清吉、老練な差配の磯兵衛など。
饅頭屋の女あるじのお智や売れっ子の戯作者長谷川豊山という元店子に加えて、團十郎ばりの所作から「成田屋の旦那」で通っている、北町奉行所定廻同心の掛井十四郎など、多彩な人物が織り成す、江戸長屋人情小説です。
第2弾では、訳ありの色男・涼太が新たに長屋に移り住んできます。
新顔の涼太は、他の店子たちと交ざりたがらず、人を寄せ付けない気配を変えず、挨拶はするが自分から話しかけることはしません。誘いにも愛想のよい笑みで断ります。
ぎりぎり角が立たないほどの間合いを置き、色男の店子に浮き立つ女たちと身構えた男たちも肩透かしを食らい、気が抜けた風に。
そんな涼太の過去が次第に明らかになり、やがて長屋に事件が起こります。
ホッコリとした人情の温かさと、先を読みたくなる謎解きの面白さが味わえる、江戸猫小説の名品です。
サバのような猫がいたら、毎日がもっと面白くて楽しいものになりそうです。
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『鯖猫長屋ふしぎ草紙』
『鯖猫長屋ふしぎ草紙(二)』