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美人女将お園の料理が人々の心を癒す、江戸人情料理帖。

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縄のれん福寿 細腕お園美味草紙有馬美季子(ありまみきこ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『縄のれん福寿 細腕お園美味草紙』(祥伝社文庫)を紹介します。


薄切りにして煮た蛸を、炊き上がる直前の飯に混ぜ込んで、汁を掛ける。それに刻んだ大葉を散らせば、ほんのり桜色に染まったご飯の出来上がり。
縄のれん〈福寿(ふくじゅ)〉を営む美人女将のお園は、優しさ溢れる料理で訪れる人々の心を癒す……。

時代は文政五年(1822)、日本橋小舟町の通称“晴れやか通り”にある、小料理屋〈縄のれん福寿〉。福寿は、女将のお園が女一人で切り盛りをしていて、常連客たちで賑わうお店です。

お園は二十歳の時に嫁に行ったが、三年も経たずに亭主だった料理人の清次が失踪するという過去を持っています。
理由がわからない清次の失踪で、お園はやり場のない思いから自分を責める日々を送り、心労と厳しい寒さがたたり、ある日、遂にからだを壊して道端で倒れてしまいます。
このまま死んでしまってもいいとさえ思ったお園を、通りすがりの見知らぬ老婆が助け、からだを優しく撫でて温め、夜鳴き蕎麦を御馳走してくれます。

 老婆は名前を告げずに去っていったが、温かな手は忘れたことがない。
 そして、老婆に御馳走になった一杯の蕎麦が、お園を変え、力をくれた。
――食べ物は、ただお腹を満たすだけのものではない。心に力を与えることだって出来るんだ。私は、あの蕎麦に力をもらった。
(『縄のれん福寿 細腕お園美味草紙』P.27 より)

失踪から一年が経った頃にお園は日本橋へ来て、仕舞屋を借り受けて店〈福寿〉を始めました。〈福寿〉を開いて二年が経った頃、店の前で倒れた若い娘・お里を助けるところから物語は始まります。

そして、今日も福寿には、悩みを抱えた者や生きることに苦しさを覚えた者、癒しを求める者が集います。
お園の料理は奇をてらったような独創的なものではありませんが、ひと手間かけて工夫を凝らし、愛情を込めて作られています。その想いは客たちの舌と胃袋を通して、心にすっとしみわたっています。料理の描写ばかりか人情描写も楽しみな江戸料理帖です。

2016年11月に刊行した本書が、著者の有馬さんの時代小説のデビュー作。2作目の『さくら餅 縄のれん福寿』もこの2月に刊行されたばかりで、今、気になる時代小説シリーズの一つです。

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『縄のれん福寿 細腕お園美味草紙』
『さくら餅 縄のれん福寿』