知野みさき(ちのみさき)さんの文庫書き下ろし時代小説、『舞う百日紅 上絵師 律の似面絵帖(まうさるすべり うわえしりつのにづらえちょう)』が光文社文庫より刊行されました。
本書は、2016年「時代小説SHOWベスト10」文庫書き下ろし部門1位に選んだ『落ちぬ椿 上絵師 律の似面絵帖』に続く、シリーズ2作目です。
父の跡を継ぎ、上絵師として身を立てたい律だが、ままならず落ち込むことも多い。幼馴染みの涼太への想いも、深く胸に秘めるばかりだ。
しかし副業の似面絵の評判は上々で、引きも切らず注文が舞い込んでいた。
そんな折、母を殺めた辻斬りの似面絵そっくりな男に出会うのだが……。
上絵師は、着物などの布に家紋や模様を描く職人のこと。律が仕上げた作品の未熟さを見抜いて離れた客も少なからず出て、昨年葉月に、伊三郎は川にはまって亡くなってしまいます。
六年前に母親の美和が辻斬りに殺された時、駆け付けた伊三郎は利き手の右手に怪我を負った。傷はほどなくしてふさがったものの、以前のような細やかな筆遣いはできなくなった。
自暴自棄になりながらも、娘の律の助けを借りて、伊三郎は上絵師であり続けた。事件後は仕上げのほとんどを律が手がけていたが、一見ではそれと判らぬまずまずの作品になっていた。
(『舞う百日紅 上絵師 律の似面絵帖』P.7より)
律は、上絵師としての独り立ちを目指して、一回り離れた弟慶太郎と暮らしていますが、若い娘の上絵師ということから、着物や紋絵の注文はなかなか入りません。知人の奉行所同心の依頼で始めた、犯人の似面絵(似顔絵)描きでした。
幾多の困難にぶつかり、落ち込むこともありながらも、一途に仕事に取り組む律を支えるのが、幼馴染みで葉茶屋青陽堂の跡取り・涼太とその妹・香(こう)。
恋に臆病で不器用ながら、前向きに生きるヒロインの姿を鮮やかに描いています。
母を殺した辻斬りの犯人捜しをしたり、似面絵制作を通じて事件に関わったり、謎解きの要素もあって、魅力がいっぱいのシリーズです。
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『舞う百日紅 上絵師 律の似面絵帖』
『落ちぬ椿 上絵師 律の似面絵帖』