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澤田ふじ子作品を想起させる、京都を舞台にした人情捕物小説

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寺内奉行検断状小泉盧生(こいずみろせい)さんの時代小説、『寺内奉行検断状(じないぶぎょうけんだんじょう)』(徳間文庫)を読みました。著者のプロフィールは紹介されていませんが、文庫の帯に「81歳の新人。」と記載された新人作家のようです。

江戸期、京都の東西本願寺は人口1万人の寺内町を形成し、幕府(京都所司代)から、徴税・風紀取締り・犯罪捜査等の自治を許されていた。一旦町中で事件が起きると下手人がどこへ逃げようとも捕縛の許可証(検断状)を得て追及するのだ。寺内奉行所の目付・黒田荘十郎に密命が下った! 丹波篠山から強訴のため江戸に向かった農民が寺内町の旅籠に投宿している。早々に捕えよというものだったのだが……。

本書は、江戸時代、幕府から自治を認められた京都の東西両本願寺の門前町(寺内町)を舞台にそこで起こる事件や人間模様を描いています。主人公の黒田荘十郎は東西両本願寺が設けた寺内奉行所の目付をつとめ、悪質な犯罪捜査に当たっています。

寺内町で犯罪を行った人物は、全国どこに逃げても、寺内奉行の目付によって追捕される特殊性を持っていました。その際に京都所司代から発給されるのが「検断状」で、寺内奉行の目付からこれを示された各藩の奉行所は、即その支配に加わり、犯人の捜査や検挙に当たらなくてはならなくなります。

物語は、連作形式で五編を収録しています。

「丹波の小壺」丹波篠山から江戸の強訴のため、寺内町の旅籠屋に投宿した農民たちを捕縛せよと命が下る。荘十郎は、病に倒れた首謀者の父の代わりに強訴に加わった少年卯之助がいることを知る…。

「愚かな刺客」寺内町で屈指の大店の仏具商の妻千代は次男源次郎を溺愛し、長男源太は気鬱の病があるとして岩倉の療養旅籠に預けっぱなしにしていた。四年前に、荘十郎は千代が侍姿の男と不義密通をしているのを偶然見かけ、仏具商を注意深く見張っていた…。

「仇討ち蕎麦」京の木賃宿に泊まる浪人竹中新蔵は父を斬った相手森田弥兵衛を探して仇討ちの旅に出立してからすでに二十余年。俳句好きの客が句を詠めるようになっている屋台の蕎麦屋があると聞き訪れたところ…。

「冬の鴉」美濃国蘇原村の村年寄から、寺内奉行に早駕籠で手紙があった。村にある浄土真宗の寺が無住のためにならず者たちに住み着かれて、賭博場として使用されている。村娘を人質として取ったり、農夫たちが博打に誘い入れられたり非道を尽くしていているという。一刻の猶予もできぬ事態に、荘十郎ら三人の目付が村に派遣されることに…。

本書の面白さは、ユニークな設定と機動性を持った犯罪捜査もさることながら、正義感と市井の人への人情にあふれる主人公の設定、そして、京都の町の歴史や文化、風習に触れながら物語が展開していく点など、多々あります。

京都への造詣の深さや、「仇討ち蕎麦」でみられる、心温まる人と人のつながりの描写など、読み味がよく、京都を舞台にした時代小説の第一人者である、澤田ふじ子さんの作品を想起させます。81歳という年齢が気になりますが、この作者の次作が楽しみです。

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『寺内奉行検断状』