田牧大和(たまきやまと)さんの時代小説、『鯖猫(さばねこ)長屋ふしぎ草紙』がPHP文芸文庫より刊行されました。
江戸の根津宮永町に、鯖縞模様の三毛猫が一番いばっている長屋があった。人呼んで「鯖猫長屋」。この美猫の名前はサバ。飼い主は猫専門の売れない画描き・青井亭拾楽(あおいてしゅうらく)。
炊きたての白飯しか食べないわがままものの猫様が仕切る長屋に、わけありの美女や浪人者が越してくる。次々に起こる不可解な事件に、途方に暮れる長屋の面々。謎を解くのは、いったい……。
谷根千(谷中・根津・千駄木)は、猫が出没するスポットや猫グッズのあるお店など、かわいい猫さんに出会える猫の聖地として知られています。江戸の昔もそうだったのかどうかはともかく、本書の舞台は根津門前町の往来と堀を挟んだ東南隣の宮永町の九尺二間の割長屋、「鯖猫長屋」です。
……そいつは、縞三毛と呼ばれる、白、茶、鯖縞柄の雄猫で、三毛の雄はごく珍しい。大人の猫にしてはほんの少し小柄だが、すらりとした身体にしゅっと凛々しい顔立ち、毛並みもつややかで、青味がかった鯖縞模様は飛び切り鮮やか、殿様姫様の飼い猫もかくやというほどの美猫である。
(『鯖猫長屋ふしぎ草紙』P.9より)
猫好きにはたまらない猫時代小説の傑作です。しかしながら、本書は素敵な猫だけでなく、長屋を舞台に起こる不可解な事件とその謎解き、個性的な長屋の面々が繰り広げる心温まる人情話、猫の画描き先生のもう一つの顔、江戸の風俗描写など、魅力がいっぱいです。
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『鯖猫長屋ふしぎ草紙』