鷹井伶(たかいれい)さんの文庫書き下ろし時代小説、『暴れ宰相 徳川綱重 運命の子』がコスミック・時代文庫より刊行されました。甲府宰相・徳川綱重(六代将軍家宣の父)の若き日の躍動を描く新シリーズです。
細すぎず太すぎず、ほどよく引き締まった体躯に、聡明そうな凛とした顔立ちをしている。潤んだような大きな瞳にきりりと意志の強そうな眉。くっと口角が上がった口元から覗く白いが眩しい若侍は、浜御殿に住む金平として誰からも慕われる若様だった。だが、彼の本当の身分は、三代将軍家光の三男にして、四代家綱の弟である徳川綱重であった。腕白育ちで江戸の町を闊歩しながらも、甲府藩主で参議を賜る身だった。
綱重は、家康の孫で、豊臣秀頼の正室だった千姫(天寿院)に育てられたが、その養母から豊臣家の血を引く侍女を側室としてあてがわれる。徳川と豊臣を結ぶ子の誕生こそ、天下泰平を為すという千姫の意図を汲んだ綱重だったが、幕閣の中に陰謀を企む奸臣の存在があった……。
金平とは、当時江戸で大流行した人形浄瑠璃の主人公、坂田金平(さかたのきんぴら)を指します。金平は、大江山の鬼退治で知られる源頼光に仕える四天王の一人、坂田金時の一人息子で、正義感にあふれ超人的な力で邪悪を制する豪傑という設定です。
本書で綱重は、その坂田金平になぞらえて「浜の金平」「金平の若様」と呼ばれる若者として登場します。これまで徳川綱重というと、弟の綱吉と五代将軍の座を争う人物として脇役的に描かれることはありましたが、主人公に据えた時代小説はほとんどなかったので、手垢のつかないフレッシュな素材で大いに楽しめます。
大坂落城後、播磨姫路城主本多忠刻に再嫁したが死別し、江戸に戻っていた天寿院こと、晩年の千姫が綱重の養母として重要な役割を演じます。幕閣の実力者たちの陰謀も絡み、最後まで一気読みしたくなる作品になってます。
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『暴れ宰相 徳川綱重 運命の子』