喜安幸夫(きやすゆきお)さんの『両国の神隠し 大江戸木戸番始末』(光文社文庫)を読みました。
両国広小路に流れ着いた新任の木戸番、杢之助は、仕事熱心と評判。古巣の四ツ谷左門町で木戸番をしていたが、ある事情から逃げ出した過去を持つ。ある日、両国界隈で神隠しの噂が流れ、八百屋の息子・留吉が消えてしまう。天狗の仕業だと町の者たちが怯える中、杢之助は留吉の捜索を買って出るのだが……。
本書の主人公・杢之助は、廣済堂文庫から刊行されている「大江戸番太郎事件帳」シリーズでおなじみの四ツ谷左門町の木戸番です。人に言えない過去を持ち、「目立たず、人間(じんかん)に埋もれて暮らしたい」と願いながらも、人の難儀を見ると放っておけない悪い癖がでてしまう、それゆえに魅力的なヒーローです。
新シリーズの「大江戸木戸番始末」では、前シリーズの最終巻『木戸の別れ 大江戸番太郎事件帳33』の続編という形で、天保八年(1837)三月から始まります。
物語の発端で、杢之助が四ツ谷左門町を離れて、小田原城下に暮らし、わずか三カ月で江戸に戻り、両国広小路に近い米沢町の木戸番に就いた経緯が説明されています。「大江戸番太郎事件帳」シリーズのファンには新天地での再登場がなんともうれしいところです。
前の北町奉行で大目付をつとめる榊原主計守忠之が事件の鍵を握ったり、江戸湾に大ダコが!というかわら版が出回ったり、難事件に対して杢之助の見事な解決ぶりを大いに楽しめます。
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『両国の神隠し 大江戸木戸番始末』
『大江戸番太郎事件帳(一) 木戸の闇裁き』(廣済堂文庫)