三國青葉(みくにあおば)さんの文庫書き下ろし時代小説、『忍びのかすていら』(白泉社招き猫文庫)を読みました。
時代は元和四年(1618)、二代将軍徳川秀忠の治世。大坂の陣で豊臣家が滅びてから戦のない世が訪れた江戸の町に、異様な風体で男伊達を気取り、徒党を組んで乱暴狼藉を働く、「傾奇者」という奇妙な者たちが現れたころが舞台です。
主人公の橘清十郎は、大坂の陣で手柄を立てた褒美に、忍びから足を洗うことを許された元・伊賀忍者。今は江戸でその腕を活かして請負人を生業としています。そして、稼いだ金を砂糖代に注ぎ込んで菓子作りに没頭し、その菓子を作ることを何よりの楽しみとする生活を送っていました。
しかし、ある日、辻斬り退治の場で将軍の嫡男・竹千代と知り合い、さらに己とくノ一の間に生まれたという七つになる少女・小雪が現れて一緒に暮らすことになったことから、次々と騒動が巻き起こり、物語は最高潮へ……。
俺の娘だと? 困る。ほんとうに困るのだ。いきなり言われても。いったいどうすればよい? こんなわけのわからぬことは嫌だ。俺は嫌だぞ。突然清十郎は、このまま外へ走り出て逃亡したくなった。
(『忍びのかすていら』P.73より)
菓子作りにしか興味がない清十郎は、突然現れた娘への対し方がわからず、困惑した挙句怒鳴り散らしてしまいます。しかし、竹千代が所望する南蛮菓子かすていら作りで試行錯誤するうちに次第に心を通わせていきます。
小雪を失うなど、俺は絶対に嫌だぞ。奪われたものは必ずこの手で取り返す。何人敵がいようとも皆殺しにしてやる。
(『忍びのかすていら』P.197より)
父と娘の絆とともに、清十郎が作る江戸スイーツの甘さばかりでなく、伊賀忍者らしい対決シーンも描かれていて、ワクワクドキドキしながら読めるキュートな時代小説です。
竹千代(後の将軍家光)をはじめ、そのお付きの者として若侍の長四郎(後の松平信綱)と三四郎(後の堀田正盛)、乳母のお福(春日局)、柳生宗矩ら有名人物が登場するのも楽しみです。
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『忍びのかすていら』