『京都はんなり暮らし』(徳間文庫)は、注目の新進時代小説家の澤田瞳子さんによる、京都の暮らしをテーマにしたエッセイ集です。
京都の和菓子と一口に言っても、お餅屋・お菓子屋と呼び方を変えているのをご存知ですか? 『枕草子』『平家物語』などの著名な書や『古今名物御前菓子秘伝抄』『色葉字類抄』などの貴重な史料をひもとき、平安の昔から今に続く京都の奥深さを教えます。誰もが知る名所や祭事のほか、地元になじむお店の歴史は読んで楽しく、ためになります。
京都で生まれ、京都で育った著者が時代小説家としてデビューする前、学生気分を失っていない瑞々しい感性で、京の暮らしの中から題材を拾い、四季に分けて綴っていく好エッセイです。学生時代に能楽サークルで活躍し、大学院で日本史の研究をしていた著者の博覧強記ぶりが全編に発揮されて、読み物として大いに楽しめました。
春の章の「桜巡りに菓子巡り」の話で、出町柳の餅屋「ふたば」の名物・豆餅を紹介しつつ、京菓子の販売店を「お餅屋」「お饅屋」「お菓子屋」の三つに大別し、「お餅屋」「お饅屋」の菓子は自宅で気軽にお番茶でいただくもの、「お菓子屋」の菓子はお客さんへのおもてなしとして抹茶と共にお出しするものと明確に区別されているのが面白かったです。
「京の茶漬け、京のコーヒー」や「つかず離れずの京都人」など、一筋縄ではいかない、京都人の特性や付き合い方を解説してくれています。
本書は、2008年6月に徳間文庫から刊行された『京都はんなり暮し 京都人も知らない意外な話』を改題し、加筆・修正したものです。著者は本書刊行後に、本格的に時代小説に取り組まれて、2010年9月に時代小説のデビュー作『孤鷹の天』を刊行し、現在の活躍ぶりに続いています。
題名の「はんなり」とは、明るさの中にも、そこはかとない上品さ、優雅さ、奥ゆかしさが漂う様子を表す、京言葉だそうです。そういえば、著者のお母様の澤田ふじ子さんの人気時代小説『公事宿事件書留帳』シリーズが、NHKで時代劇化されたときのタイトルが「はんなり菊太郎」だったことを思い出しました。
8年前のエッセイですが、京都という都市の特性もあり情報に古びたところがほとんどなく、話の構成も巧みで端正な文章で綴られていて、知的な京都ガイド本としてもおすすめです。これまでとひと味違った京都観光をしてみたくなりました。
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『京都はんなり暮らし』
『闇の掟―公事宿事件書留帳〈1〉』(澤田ふじ子著)