芝村凉也さんの『御家人無頼 蹴飛ばし左門 殺人刀無常』(双葉文庫)は、本所南割下水に住む無頼漢・三日月左門の活躍を描くシリーズ第3巻です。
三日月左門によって己が立て続けに阻まれてきた赤鞘組の小頭・猿橋市之丞は、副頭目の轡田兵庫の来訪を受け、組織への上納金が減っていることを咎められる。轡田の苛烈な制裁を恐れた猿橋は、左門と懇意にしているお神楽一家の縄張りを奪うべく策を講じるが……。
大川の東側にある本所深川は、後から江戸の町に組み込まれた新興の土地です。小普請組という、幕臣でありながら役目につけない御家人たちの屋敷も多くは本所の地にあります。
武家は、親代々の禄を受け継ぐだけで、出世でもしない限り収入が増えることはない一方、太平の世が続くにつれて暮らしは贅沢になり、物価も上がっていました。お役に就いて役料などの追加の俸禄も、役得である賂などとも無縁の小普請たちにとって、生きていくだけでも大変な時代です。
そんな中、悪事に走る者や破落戸と変わらぬような御家人も現れます。「御家人無頼 蹴飛ばし左門」は、本所を舞台に、無法な御家人たちを、無頼漢でありながらも正義感と人情を失わない左門が懲らしめる痛快な時代小説シリーズ。
悪知恵が働き、左門らに幾度となく危難を与えてきた猿橋よりも、さらに悪辣で凶悪な新しい敵が登場するという設定で、その剣戟シーンも圧巻の第三弾です。「素浪人半四郎百鬼夜行」とはまた別の面白さが堪能できます。
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『御家人無頼 蹴飛ばし左門 殺人刀無常』