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相撲まで取る“算盤侍”の優しさと強さが心に沁みる

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秋しぐれ 風の市兵衛辻堂魁さんの『秋しぐれ 風の市兵衛』。本作はシリーズ14作目になります。

廃業した相撲取り・鬼一磯之助がひっそりと江戸に戻ってきた、かつて土俵の鬼と呼ばれ、大関昇進を目前にした人気者だったが、やくざとの喧嘩のとばっちりで江戸払いとされていた。十五年ぶりに、離れ離れになっていた妻と娘に会いに来たのだ。
一方、“算盤侍”の唐木市兵衛は、旗本で御徒組組頭を務める竹崎伊之助から、家人に内緒でした札差への借金の減額交渉を依頼された……。

借金の減額交渉を依頼された市兵衛が、老獪な札差・橋本屋茂吉に対して、寛政の改革で定められた利率を超える高利貸の事実を冷静に指摘しながら、損得勘定を説くシーンが見どころの一つ。久々に“算盤侍”の本領発揮といったところで胸がすきます。

物語は、十五年ぶりに江戸に戻ってきた鬼一は、江戸に残してきた家族の消息を知ります。妻は三年前に亡くなり、三歳の娘も水茶屋の茶酌女に身をやつしていました。将来を嘱望された相撲取りがその絶頂からの転落し、放浪の末に家族を訪ねて戻る、不器用な男のの壮絶な生きざまに引き込まれました。

「唐木さん、助かりやす。唐木さんと相撲をとってよかった。唐木さんが相撲とりになっていたら、大関間違えなしですよ。綱を締めて土俵入りをする、当代一流の大関に間違えなしだ」

土俵の鬼と呼ばれる鬼一の相撲のシーンに臨場感があって、力士の立ち合いが目の前に浮かび手に汗を握ります。市兵衛もまわしを付けて相撲を取る、読者向けのサービスカットもあります。「風の市兵衛」シリーズでも屈指の傑作の一つです。

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『秋しぐれ 風の市兵衛』

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