あかほり悟(さとる)さんの『御用絵師一丸 藍の武士』(白泉社招き猫文庫)を読みました。前の将軍家斉の正室・広大院に仕える絵師一丸(ひとまる)の暗殺者としての裏の役目での活躍と葛藤を描くシリーズ第二弾です。
天保の改革を推し進める水野忠邦は、諸藩の改易を企んでいた……。大奥で忠邦に対抗する広大院に仕える絵師の一丸は、武士を捨て毒を駆使する暗殺者の道を歩む。
旗本の部屋住み間瀬勘六は家を継ぐあてがなく、将来に何の展望も描けず鬱屈した生活を送っていた。番町で絵を描いていた一丸を無礼打ちをしようとするが、逆に西ノ丸大奥申次の橋口上総介に咎められて逃げるようにその場を離れた。
その一月前、摂津茨木藩に旗本の侍衆が討ち入る事件が起きた。この事件を南町奉行鳥居甲斐守耀蔵が取り調べ、老中首座水野忠邦が喧嘩両成敗の基本に則り、茨木藩を改易、討ち入った旗本たちを切腹にする裁定を出していた。
物語は、一話完結の連作形式で、一丸が遣う“絵付け”の技に関連した色を冠したタイトルが付けられています。「第一話 真朱」「第二話 蕎麦色」「第三話 黒橡」「第四話 藍の武士」といったように。
「黒みを帯びた赤で、真朱と申します」
「真朱」
「血の色もこの赤を使うことがよくございます」
主人公の一丸は、戦国大名宇喜多家の末裔で、“毒師”として毒をもって暗殺を生業とする家を継いだ者という設定です。主君に言われ、政敵や邪魔者の暗殺が主な仕事で、“絵付け”という恐るべき暗殺術を受け継いでいました。
一丸は元武士だが、その家は代々広大院の“仕事”を請け負ってきた。一丸自身は故あって武士をやめたが、「仕事」をやめることは叶わなかった。指示がでれば確実に“絵付け”を遂行せねばならない。一丸の殺し技は「毒」である。絵師の道具である岩絵の具に絶妙な配合をして、そのときそのときの毒を作り出し、殺しをする。そのため、そのことを『絵付け』と呼ぶ。
舞台は、天保の改革真っ只中のころ。水野忠邦と鳥居耀蔵が敵役として登場し、物語に緊張感とスケール感を与えています。表題作では、藩を守るために、改革を苛烈に進める実の父を死に追いやった若者が登場します。天保の改革への強烈な批判のようにも読み解ける話です。ライトで痛快な活躍話ばかりでなく、人々の葛藤も描かれていて深いです。
「父の改革は苛烈なものです。武士に倹約や商人や職人のような仕事を押しつけるのはもちろんでしたが、それ以上に民百姓からの収奪をさらに過酷にしようとしていたのです」
(中略)
「私は武士としての誇りと、苛烈な改革を止めるため、父を殺しました。しかし、父の方策の代わりは思いつきませんでした」
少女マンガ風の表紙装画(鳥野しの・イラスト)と、読みやすい軽快な筆致ながら、キャラクター設定が魅力的で、時代背景を織り込んだストーリー展開は巧みです。一気に読める新感覚の書き下ろし時代小説として、次回作もますます楽しみになりました。
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『御用絵師一丸』
『御用絵師一丸 藍の武士』