「料理人季蔵捕物控」シリーズが人気の、和田はつ子さんの『鬼の大江戸ふしぎ帖 鬼が見える』(宝島社・宝島社文庫)を読みました。
人よりも鬼のほうが多く棲む「大江戸」。鬼は人と変わらない姿で暮らしていた。南町奉行所定町廻り同心の渡辺源時(げんとき)は、妹のお福がかどわかされる事件をきっかけに、「鬼が見える」自分に気付く。
大江山の酒呑童子を倒した源頼光配下の四天王の末裔たちは、鬼の本性を見分けることができるという。その末裔の一人、源時は、この不思議な力を使って、鬼たちと戦い、時には助け合って事件を解決する……。
大江戸は、人よりも人になりすました鬼たちが多いという設定がぶっ飛んでいて楽しい、不思議な味の捕物小説です。
目の前の二つの顔は人ではなかった。口が耳まで裂け、長い牙が生えている。毛深いせいで顔が黒く見える。ごろりとした大きな黄色い目には馴染みがあった。猫の目に似ている。
――まるで猫鬼だ――
「おまえは、し、してんのうだな」
猫鬼のほかにも、狐鬼、鼠鬼、兎鬼、狸鬼といった獣鬼から、蚊蜻蛉鬼という虫鬼、鶯鬼、時鳥鬼、鶉鬼、鷹鬼など、それぞれの本性に沿った性格付けがされた鬼たちが登場します。たとえば、鬼族の頂点に君臨する狼鬼は誇り高く好き放題をやり、兎鬼は守りに徹して思慮深く、受けた恨みは終生忘れません。また、鬼たちは、鬼狩りをする四天王の末裔たちを本能的に恐れます。このゲームのような設定が物語を面白くしています。
「その昔、一条天皇は都から美しい姫たちが攫われ続けた時、安倍晴明に占わせて、大江山の酒呑童子の仕業だと突き止めた。鬼族の最高位に君臨する、狼鬼の酒呑童子は無敵で、姫攫いの目的は美女の血肉だった。古来より、狼鬼の誇りは肉しか決して口にせぬことだ。口の奢った酒呑童子は、獣肉では物足りなくなっていたのだ。(後略)」
酒呑童子は、源頼光(みなもとのよりみつ)が大将で、配下の渡辺綱、坂田公時、碓井貞光、卜部季武の四人の武者、頼光四天王に退治されます。本編の主人公源時は、渡辺綱と坂田公時を合わせたような名前で、いかにも四天王の末裔らしい感じです。
「第一話 鬼が見える」ではホラーっぽい感じも、「第二話 鬼の声」の謎解きミステリーも良いですが、「第三話 鬼の饗宴」の不条理でちょっと切なくなるストーリー展開が印象に残ります。善悪さまざまな個性の鬼たちを描く、この不思議な味の捕物小説は癖になります。続編が読みたくなりました。
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『鬼の大江戸ふしぎ帖 鬼が見える』