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忍びの女と出島の異国人医師の運命の愛を描く伝奇歴史ロマン

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私が愛したサムライの娘鳴神響一(なるかみきょういち)さんの『私が愛したサムライの娘』(角川春樹事務所)は、八代将軍徳川吉宗の時代を舞台にした時代小説です。

著者は、この作品で、2014年に第6回角川春樹小説賞を受賞(受賞時のタイトルは「蜃気楼の如く」)し、作家デビューをしています。

元文二年(1737)、八代将軍徳川吉宗と七代尾張藩主徳川宗春の対立が水面下で繰り広げられていた頃。幕府転覆を謀る宗春に仕える甲賀忍び雪野は、長崎へ下る命が下された。満汐太夫として遊里丸山町一番の売れっ妓となり、出島へ潜入を果たす。そこで出島の上外科医のヘンドリックと運命的に出会い、やがて二人は惹かれ合っていく……。

将軍吉宗と尾張宗春の対立劇は、上田秀人さんの「将軍家見聞役 元八郎」シリーズをはじめ、東郷隆さんの『御町見役うずら伝右衛門』や黒崎裕一郎さんの『はぐれ柳生必殺剣』、えとう乱星さんの『あばれ奉行―安藤源次郎殺生方控』など、たびたび描かれてきた伝奇時代小説ではおなじみのテーマの一つです。

「我が術の拙さを恥ずるばかりでございます……されど、左内どのは、なぜここに……」
「雪野一人に、大事のお役目を任せておけぬと思うてな。お前が江戸を発つ時から、ずっと見ておった」
 初めから、師が弟子を見守りながらのつとめだったとは……。雪野はひとときでも、一人前につとめを果たしているような錯覚を覚えていた自分を深く恥じた。

物語の冒頭で、雪野は下総高岡一万石、井上家陣屋の奥御殿に侵入して、『筑後守覚書』なる秘文書を奪い脱出の途中、伊賀の忍びに襲われます。あわやというところで、雪野は、中忍で師の諏訪左内に助けられます。忍び同士の壮絶な闘いシーンとともに、雪野が一人の女として、左内に対して憧れのような思慕の情も繊細に描かれていきます。

「あの医者は、なんと申したのだ」
「必ず出島を訪ねてこられよ……と、しかし……」

(中略)

 尾張家の申し出に哀れなほどに脅えてしまったフィッセルと比べて、堂々とした態度を保ち続けたヘンドリックに、左内は、違和感を持ち続けた。やはり、あの男はただの医者ではない。

 
本作では、そこに長崎の出島を組み合わせたことで、奇想天外なストーリー性と異国情緒が与えられて、壮大なスケール感を感じられ、雪野と左内とヘンドリックの三人を中心にしたやり取り、尾張と江戸の忍者同士の対決など、読みどころも多く、ワクワクを感じながら、一気に読むことができました。

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『私が愛したサムライの娘』(鳴神響一・角川春樹事務所)
『竜門の衛 将軍家見聞役 元八郎 一』(上田秀人・徳間文庫)
『御町見役うずら伝右衛門』(東郷隆・講談社文庫)
『はぐれ柳生必殺剣』(黒崎裕一郎・文芸社文庫)
『あばれ奉行―安藤源次郎殺生方控』(えとう乱星・ベスト時代文庫)

→角川春樹事務所|私が愛したサムライの娘