植松三十里(うえまつみどり)さんの、『調印の階段 不屈の外交・重光葵』がPHP文芸文庫から刊行されました。敗戦直後、外務大臣として、降伏文書への調印を引き受け、マッカーサーとの交渉に挑んだ、昭和の外交官・重光葵(しげみつまもる)の知られざる生涯に光を当てた長編小説です。
1931年、駐華公使・重光葵はテロに遭い、右脚を失う。外交の第一線に復帰し、孤立する日本を救うために日中戦争を終結させようとするも、戦局は悪化に一途をたどる……。
テロで片足を失いながらも、外交の第一線で戦争回避、戦争に突入してからは戦争終結に奔走し、戦後は降伏文書への調印という不名誉な“仕事”を行った男の生き様を、重光の手記や当時の資料をもとに、丹念に描いています。
目指すは巨大戦艦ミズーリ。
その船腹には、白い鉄製のタラップが、海面まで降ろされていた。
重光は杖をついて立ち上がった。ランチの揺れで歩きにくい。なんとか手すりにつかまって、上を見上げると、膨大な数の階段が続いていた。
だが不安より、ようやくここまで辿り着いたという思いが勝る。自分は、この階段を昇るために、今まで幾多の障害を乗り越えてきたのだ。
(本文より抜粋)
終戦70年の節目の年に、ぜひ読んでおきたい作品の一つです。単行本刊行時に一度読んで強い感銘を覚えました。文庫化を機に再読したいと思います。