『若冲』が第153回直木賞候補作品に選ばれた、澤田瞳子さんの編集による時代小説アンソロジー、『大江戸猫三昧 時代小説傑作選』(徳間文庫)を読みました。
収録作品は全10編。いずれも物語の中で、猫が主要な役割を演じています。
岡本綺堂「猫騒動」(『半七捕物帳』より)
古川薫「黒兵衛行きなさい」(『獅子の廊下の陰謀』より)
森村誠一「猫のご落胤」(『非道人別帳 一 悪の狩人』より)
池波正太郎「おしろい猫」(『にっぽん怪盗伝』より)
島村洋子「猫姫」(『しぐれ舟』より)
光瀬龍「化猫武蔵」(『新宮本武蔵2』より)
海野弘「大工と猫」(『江戸星月夜』より)
高橋克彦「猫清」(『おこう紅絵暦』より)
小松重男「野良猫侍」(『のらねこ侍』より)
平岩弓枝「薬研堀の猫」(『御宿かわせみ かくれんぼ』より)
ド定番から、実力派、新鋭、チャレンジングな作品まで、収録作品のバランスが良くて、編者の時代小説に対する愛情を感じます。それぞれの書き手の特徴がよく表れていて、猫好きの方はもちろん、そうでない方も大いに楽しめます。
「猫騒動」と「化猫武蔵」は、江戸時代の奇談集『耳嚢』に収録された「猫、人につきし事」に着想を得た作品で、読み比べてみるのも一興です。
「猫姫」に登場する将軍家慶の寵愛を受けるようになったヒロインの妹のエピソードは、蜂谷涼さんの『はだか嫁』に登場するお琴の方を想起させます。(同じ人物をモデルにしているのでしょうか)
いつの世も「猫」を通じて描き出されるのは、そこに生きた人間たちの姿である。近代と比べ、江戸以前の人物については時代が隔たっていることもあり、なかなか私たちの身に迫ってくることはない。しかし彼らが同じ猫好きと思えば、物語の人物達がなにやら親しみを持って感じられ、今いる猫もすでに幽界にいるであろう猫もともに時空を超え、ひとしく猫三昧境に遊ぶ心地になれるのではなかろうか。
(『大江戸猫三昧 時代小説傑作選』解説――文学における「猫」の位置づけより)
文庫の巻末の解説が、収録作品の解題に加えて、平安から明治までの文学における「猫」の話は、時代小説ばかりでなく、日本文学への著者の造詣の深さをうかがい知ることができて、読みごたえがあります。
今から10年以上前の2004年11月の刊行で、現在、絶版になっているのが残念です。同じ編者による姉妹編の『犬道楽江戸草紙 時代小説傑作選』は、時代小説ファンおよび犬すきの方におすすめ(こちらも復刊を期待しています)。
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『大江戸猫三昧 時代小説傑作選』(澤田瞳子編・徳間文庫)
『犬道楽江戸草紙 時代小説傑作選』(澤田瞳子編・徳間文庫)
『若冲』(文藝春秋)
『はだか嫁』(蜂谷涼・文春文庫)
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