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江戸の商店街「風待ち小路」で繰り広げられる人情小説の逸品

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春はそこまで 風待ち小路の人々志川節子(しがわせつこ)さんの『春はそこまで 風待ち小路の人々』(文春文庫)は、江戸の小さな商店街「風待ち小路」に集まっている店を舞台にした市井人情小説です。第148回(2012年下期)の直木賞候補作でもあります。

芝神明社にほど近い「風待ち小路」には、小さな商い店が軒を寄せ合っている。絵草紙屋の旦那笠兵衛は、店を手伝う息子瞬次郎に不甲斐なさを感じていた。生薬屋の内儀おたよは、夫亀之助の女道楽に悩む日々を送っていた。そして、洗濯屋をしながら女手一つで子供を育てるお栄の家にも悩みが……。
しかも近所に新しくできた商店街「日の出横丁」にお客が流れて、各店の売上が鈍っていた。そこで瞬次郎や亀之助ら若い跡取りたちが、集客のためにあることを企てる……。

第一話「冬の芍薬」は絵草紙屋、第二話「春はそこまで」は生薬屋、第三話「胸を張れ」は洗濯屋というように、一話完結でスポットライトが当たる主人公が変わる形で物語が進みます。絵草紙屋の店先のディスプレイの様子や、店頭販売のほかに通販を行う生薬屋など、それぞれの店で商いの工夫が凝らされていて商業小説としても楽しむことができます。

「店ごとの工夫でお仕舞いにしているから、風待ち小路として横につながっていかないんです」

跡取り息子たちが危機感をもって動き始めた第四話から、物語は町おこしのドラマに変わっていきます。そこに、男女の恋模様と家族の愛憎も加わり、面白さのボルテージが結末に向けてどんどん高まっていきます。

デビュー作の『手のひら、ひらひら 江戸吉原七色彩』では、吉原を舞台に男女の織りなす愛の形を下品なエロティシズムに陥らずに、独創性豊かな新しい時代小説として仕上げていました。

今回も、第一話の「冬の芍薬」を読んだとき、しっとりした大人の恋の物語なのかと思わされましたが、その後のストーリー展開の躍動感に心地よく裏切られて、絶妙に張り巡らされた伏線だったのかと後で感心させられました。

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『手のひら、ひらひら 江戸吉原七色彩』
『春はそこまで 風待ち小路の人々』

→文藝春秋BOOKS|春はそこまで 風待ち小路の人々