藤沢周平さんの『橋ものがたり』を読み終えた。十数年前に読んだときよりも、市井の男女の恋模様を面白く感じた。初読のときも面白いと思ったものだが、市井小説の真髄に触れた思いがする。自分がそれなりに年を重ねたせいかもしれない。
「小さな橋で」という短編が収録されている。作品の舞台は時代小説では珍しい、小日向である。
「原っぱに行こうよ」
(中略)
…原っぱというのは、崇伝寺の後にひろがる雑木林と葭の茂る湿地のことである。寺の境内からこの原っぱにかけての一帯は、町の子供たちの遊び場所だが、日暮れになると淋しくなる。
(「小さな橋で」『橋ものがたり』P.162より)
主人公の少年広次は仲間の子どもたちと、崇伝寺の裏に広がる原っぱに、行々子(ヨシキリ)の巣をのぞきにいくことを楽しみにしていた。江戸切絵図を見ると、崇伝寺は関口水道町にあり、近くには『江戸名所図会』に描かれた目白下大洗堰や目白不動があった。ちなみに物語に描かれた小さな橋は神田上水に架かる橋のように思われる。
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