藤沢周平さんの『橋ものがたり』を読み直している。タイトルどおりに江戸の橋を舞台にした10の短編を収録。十年以上前に一度読んでいるはずなのだが、ストーリーをすっかり忘れていて、初読のようなワクワク感を抱きながらページを繰っている。
「五年経ったら、二人でまた会おう」
幸助とお蝶の交わした約束。しかし、若い二人にとって、五年は平穏な月日ではなかった。それぞれが抱える不安と後悔、そして相手を思う強い気持ち。約束の場所は萬年橋。映画のワンシーンのよう。一話目で、いきなり涙腺が開いてしまった。
それぞれの話では、市井の普通の人(中には借金のために男と寝ることを強いられる女も含まれるが)が主人公。現在の境遇を愚痴ることもなく、それぞれが誠実に真摯に生きている。そんなつましい生活の中で、本当にささやかなことに生きる喜びを見出したり、人を思いやったりする姿が感動的。
忙しい生活の中で失くしてしまったものを気づかせてくれる。心の癒しになる作品集だ。
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