歴史家・安藤優一郎さんの『鬼平の給与明細』を読みました。鬼平について触れられているのは第1章のみですが、鬼平を導入にしたことでとっつきやすく、武士の金銭感覚、懐事情を明らかにしていく試みで一気に読めました。
- 作者: 安藤優一郎
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2010/04/09
- メディア: 新書
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長谷川家は四百石ながら内福であったこと、にもかかわらず、人足寄場経営で苦心したこと、経費捻出のために銭相場に手を出すなど理財に長けていたことなど、小説や時代劇では描かれていない別の面が紹介されています。
また、大名となった大岡越前守忠相は関東五カ国に所領をもっていたが、加増の際に、所領をまとめて、物成りの豊かな上方に新領地が与えられるように若年寄に働きかける裏工作をしたことなど、名奉行というよりは有能な官僚だったことがわかる伝わるエピソードのように思えます。
天保の改革を断行した老中水野忠邦が失脚したの経済問題が原因。上知令(江戸・大坂周辺の大名領や旗本の所領を取り上げ、幕府領にしようとはかる施策)は、幕府権力の強化を目論んだものです。しかし、大名・旗本たちには実質的な大幅な収入減を与えるとともに、領民たちには債権(御用金や年貢先納金)が踏み倒される恐れを与えて、強力な反対を受け、頓挫することになります。
「武士とカネ」というと、賄賂に塗れて政事を恣にする執政者の姿が思い浮かびます。時代小説の主人公たちはお金に対して淡白というか清らかなイメージがあります。どちらも物語の設定としてはメリハリがあってよいのでしょうが、ときには資料に基づいたディテールのしっかりした小説を読みたいと思います。
■目次
はじめに
1.鬼平の懐事情~金策に苦心する
(1)火付盗賊改への道
(2)平蔵に注がれる世間の冷たい目
(3)鬼平の苦しい台所
2.金品が飛び交う江戸の武家社会~給与の表と裏
(1)俸禄米と扶持米
(2)賄賂と役得
(3)八丁堀の旦那の錬金術
(4)江戸の贈答品マーケット
3.御家人の生活簿~武士の財テク
(1)節約の知恵
(2)屋敷の活用
(3)武士を売る、買う
4.旗本の家計事情~農民への借財
(1)大岡忠相の裏工作
(2)用人に支えられた旗本たち
5.武士の消滅~消え行く家禄
(1)幕府の滅亡
(2)江戸を去る幕臣たち
(3)家禄の整理
おわりに
『鬼平の給与明細』
安藤優一郎著
ベスト新書
191ページ
編集協力:三猿舎