畠中恵(はたけなかめぐみ)さんの『まんまこと』を読了しました。江戸は神田で八つの支配町を持つ古町名主、高橋宗右衛門の跡取り麻之助が、町に起こった事件解決に立ち向かう連作形式の時代小説。
ある日、女好きの悪友・清十郎が「念者のふりをしてくれ」と麻之助に言ってきた。嫁入り前の娘にできた子供の父親にされそうだという。清十郎は娘と口を利いたこともなく、子供ができるはずがない。本当の父親は誰なのか?
主人公の麻之助は筋金入りの遊び人で“お気楽もの”というキャラクター。それに加えて彼の悪友で、同じ町名主の跡取りの“超イケメン”の八木清十郎と堅物で同心見習いの相馬吉五郎のトリオでの掛け合いが漫才っぽくて楽しい。「静心なく」の話でのスラップスティックな展開など、作者の真骨頂というべきところ。見所のひとつです。
町名主の家を舞台にした時代小説は、意外に少ないように思います。「江戸名所図会」で知られる斎藤月岑の家を描いた、杉本章子さんの『名主の裔(なぬしのすえ)』のほかに思い出せません。
しかしながら、江戸における町名主の役割は大きなもので、町内の揉め事を調停するお役目をもっていて、町内に住む住人の生活を左右するといっても過言ではないでしょう。
この作品では、町名主に着目したばかりでなく、半襟や万年青、鈴木越後の羊羹、ペットなど、江戸の風俗・流行を巧みに物語の中に取り入れています。そのため、読者も容易に江戸にタイムスリップできます。
■目次
まんまこと
柿の実を半分
万年、青いやつ
吾が子か、他の子か、誰の子か
こけ未練
静心なく
解説 吉田伸子
『まんまこと』
畠中恵著
文春文庫
2010年3月10日 第1刷
P.356
552円+税
装幀:南伸坊
時代:寛政元年が十年と少し前のころ
場所:神田、深川、日本橋、愛宕山
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