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江戸初期の武蔵野の自然が美しい傑作伝奇小説

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1月12日に北重人(きたしげと)さんの『白疾風(しろはやち)』を購入。作者が2009年8月26日に逝去されたことで、今後文庫化されていく作品の数がカウントダウンしていくことが淋しい。隆慶一郎さんのときみたいでしみじみとした思いにとらわれてしまう。

白疾風(しろはやち) (文春文庫)

白疾風(しろはやち) (文春文庫)

1月12日の朝日新聞朝刊の「三八(サンヤツ)」で、『火の闇』と『汐のなごり』の広告が出ていた。『汐のなごり』は第140回直木賞候補作で、『火の闇』は飴売り三左を主人公とした遺作。『白疾風』の解説ページにあった著作リストを見たら、全部で8冊(うち1冊は現代もの)刊行されていて、『夜明けの橋』も遺作のひとつとのこと。すぐに読んでしまおうか、文庫化まで楽しみに待つか。

火の闇 飴売り三左事件帖

火の闇 飴売り三左事件帖

汐のなごり

汐のなごり

夜明けの橋

夜明けの橋

『白疾風』は、戦国時代の天正九年(1581)に始まり、江戸の初期が舞台として描かれている。家康の江戸打ち入り直後の町づくりのダイナミズムが興味深い。神田山を削り、日比谷の入江を埋め立てていったという。

江戸初期の武蔵野の自然が何とも美しい。やがて天下の江戸へと変貌を遂げることになる、江戸の町の成り立ちが、建築家で町づくりの専門家でもあった北さんの目を通して描かれていて興味深い。

主人公は、織田信長の伊賀攻めにからくも生き残った「疾風(はやち)」の異名を持つ元忍者の三郎。江戸開府直後、武蔵野の西、伊奈道から外れた谷の村に、妻の篠と畑を耕し静かに暮らしていた。そんな中で、風魔残党やら、武田の隠し金山の噂など、不穏な気配が漂ってきた。村を狙う何者かの陰謀。伊賀の元忍びが村を守るために立ち上がる…。

村の名前は作中では明記されていない。伊奈道は、五日市伊奈村で石が採れ、石工が住んでいた。天正十八年(1590)の徳川家康の江戸入府以来、江戸城の作事普請のため、伊奈道は石を運び、石工を江戸に通わせる目的で整えられた。やがて街道は周辺の村の農作物や特産物を江戸に運ぶ道として発展し、「五日市道」と呼ばれるようになっという。

三郎の村から甲州道中の府中までおよそ一里ばかりという記述があるから、国分寺のあたりだろうか。

話が逸れたが、物語自体がなんとも面白い。宝探しと忍者ものの要素も加味されて、傑作伝奇時代小説に仕上がっている。

物語では、風魔出身の古手商の鳶坂甚内と武田素波の頭だった向崎甚内が登場する。吉原の創設者の庄司甚内を加えて、三甚内と呼ぶ。国枝史郎さんの作品に『三甚内』があり、青空文庫で読むことができる。http://www.wattpad.com/56637