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この世で一番恐ろしい人間を描く、陰陽師小説

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『逆髪』は土御門家の陰陽師・笠松平九郎が活躍する連作時代小説。陰陽師ものといっても、「この世で一番恐ろしいのは人間、物の怪などおりますまい」と主人公に語らせている。京の町と人情、文化が楽しめる。

「夜の釜」

向日性の娘・お雪と老女おさと(五十過ぎで老女というのは可哀想だが)の思いやりのある交流。消えたおさとの夫・八十八の隠された過去と背中の彫物の謎。

「嫗の人形」

東西本願寺と関わりのある法衣屋八文字屋の主人・浄琳は見知らぬ男から呪いの藁人形を渡されることから起こる珍奇な騒動。

「異本の骸」

二十歳前後の若い人ばかりを襲う辻斬りが連続して起こり、京の町を震撼させる。辻斬りの裏で、眼科医柚木太淳と異本本草綱目のつながりは…。

「師走念仏」

知恩院の門前で観相をしていた侘助は数日前から山門を見上げる粗末な身形の少年岩吉が気になっていた。子どものいじめと親の責任を考えさせる一編。知恩院の山門の驚くべき大きさが舞台栄えする。

「逆髪」

八卦見の孫七は、縁談のある女の手に不吉な卦を見たことが原因で、中間風のやくざめいた男たちに脅され、その女が次にきたときには大吉と言うように金を置いて行かれる…。

「朱蛇地獄変」

平九郎は貸本屋から借りた『徒然草』の本の間に、紙問屋の内儀への恋文を見つける…。サイドストリーで大垣藩の李唐画「雪景山水画」の買い戻し騒動を描く。

澤田ふじ子さんの『逆髪―土御門家・陰陽事件簿〈4〉』は頭と心が豊かになる一冊。「逆髪」は謡曲『蝉丸』から名付けられた、土御門家に伝えられる手相の卦の一つ。

「人は悩みや迷いを陰陽師たちに打ち明けることで、誤った行為に走るのを思い止まる場合もあり、こうしたことが結果的に、犯罪を未然に防止させるのであった。」(『逆髪』)幕府は陰陽師たちの果たす社会的役割を高く評価し、陰陽頭・土御門家に全国支配を許していたという。