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時代小説のもつ現代性が魅力―『雲を斬る』

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最近、ある人から尋ねられて、時代小説好きになった経緯や時代小説のどこが好きかという話をした。作家としては故人ではなく現役として活躍している作家たちの作品により惹かれると答えた。

その理由の一つが、今出ている時代小説のもつ現代性が挙げられる。時代小説というと、江戸時代など過去に舞台を設定して描かれているので、いつまでも古くならないと思われがちである。確かに、『半七捕物帳』や山本周五郎さんの作品など、今、読んでみても十分面白い。しかしながら、会話部分などの文体や風習の説明、何よりも主人公(作者の歴史観が反映されることが多い)の言動から、作品の描かれた時代が感じられて、多少居心地の悪さ、すっきりしない部分を残してしまう。

半七捕物帳〈1〉 (光文社時代小説文庫)

半七捕物帳〈1〉 (光文社時代小説文庫)

これは小説のもつ現代性(というか同時代性)というべき問題で、時代小説とはいえ、作品の描かれた時代の影響を受けずにはいられないのではないだろうか。

十年ぐらい前まで識者による時代小説のベスト10という雑誌の企画があると、ランクインしている作品のほとんどが大御所(故人)たちによる時代小説の名作と呼ばれる作品ばかりということがあった。識者たちが若い頃は故人となっている大御所たちも現役であったために、素直に面白いと思ったとしても不思議はないが…。とはいえ、若い人がその作品の世界にすんなり入り、識者たちと同じように感動できるかというと疑問である。

また、何よりも優れた時代小説の書き手がいる中で、あえて故人の作家を挙げるのはもったいないという思いも強い。とくに、現在のように時代小説が活況を呈し、時代小説以外のジャンルの書き手も続々と時代小説を書いている幸福な時代においては。

さて、『雲を斬る』の作者池永陽(いけながよう)さんは、初の時代小説作品である、この作品で第12回中山義秀文学賞を受賞されている。『走るジイサン』で第11回小説すばる新人賞を受賞し、『コンビニ・ララバイ』が2002年の「本の雑誌」上半期ベスト1に選ばれた、気鋭の現代小説の作家である。

雲を斬る (講談社文庫)

雲を斬る (講談社文庫)

走るジイサン (集英社文庫)

走るジイサン (集英社文庫)

コンビニ・ララバイ (集英社文庫)

コンビニ・ララバイ (集英社文庫)

元越前丸岡藩士の由比三四郎は、父の仇を追って江戸の町にやってきて三年。本業は寺子屋の師匠ながら、貧乏生活でお金に困ると、金策のために得意の運籌流の剣を生かして道場破りを行っていた。ある日、女郎屋に売られる娘おさとを助けたが、人買いの恨みを買い、首に五十両の賞金をかけられてしまう…。

藤沢周平さんの『用心棒日月抄』を想起させるような設定であるが、フリーターや援助交際、シングルマザーにニューハーフ、整形と、現代的なキーワードで読み解くことができる素材が散りばめられていて、若い読者もスッと入り込める構成になっている。

寺子屋の場所を提供する放浪の僧・快延や長屋の面々など三四郎の周囲の人物たちなど、人と人とのつながりが希薄になっている現代からみると、ユートピアのような世界が展開されているのも魅力のひとつだ。

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