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榎本武揚を愛した女性通詞を描く時代小説

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宇江佐真理さんの『アラミスと呼ばれた女』を読んだ。アラミスは、アレクサンドル・デュマの『三銃士』の登場人物で、女性的な人物として描かれている。本書の主人公お柳は、榎本釜次郎(後の武揚)の命により、男装をして、幕府洋式軍隊を指導するフランス軍事顧問団付きの通詞を務めることになる。

アラミスと呼ばれた女 (講談社文庫)

アラミスと呼ばれた女 (講談社文庫)

三銃士〈上〉 (岩波文庫)

三銃士〈上〉 (岩波文庫)

 フランス人教官による陸軍伝習隊の訓練は政局の悪化にも拘わらず、毎日規則正しく進められていた。

 そろそろサロンに戻ろうかと踵を返した時、「アラミス、そのままで。動かないで」という意味のフランス語が聞こえた。

 驚いて声のした方を振り向くと砲兵中尉(後、大尉)で砲兵科教官のジュール・ブリュネが画帖を開いて、先刻からお柳の姿をスケッチしていた。

 お柳は海を眺めながら物思いに耽っていたので少しも気づかなかったのだ。

(『アラミスと呼ばれた女』P.117より)

本書の魅力の一つは、榎本釜次郎と行動を共にしたお柳の眼を通して、末から明治初頭の箱館戦争までの激動の時代を、ロマンあふれる形で描いたところ。戦いという極限の状況下で一人の男性を愛したお柳の波瀾万丈な生涯が面白い。

「おいらはぼんくらよ。肝腎な時にゃ、必ずどこかでズドンと抜ける。早くしろ、早くしろと会津や仙台に急かされていたのに、勝さんが待てと言うものだから、徒に時を喰ったのかも知れねェ」

(『アラミスと呼ばれた女』P.160より)

時代小説では変節漢として描かれることが少なくなく、今まで嫌っていた榎本が何とも好男子と思えてくるのがよい。戊辰戦争から箱館戦争までの彼の行動を見ていると、彼の生き方や考え方というよりは、自嘲気味に言った先の科白からうかがえる間抜けぶりとツキのなさによるところが大きいように思われてならない。その意味でも憎めないところがある。

また、本書での収穫は、榎本たちの幕府軍と行動を共にした、ブリュネをはじめとしたフランス軍事顧問団のフランス人たちの活躍ぶりがしっかり描かれていることである。

おすすめ度:★★★★☆