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江戸時代の絵師を題材にした珠玉の短篇集

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葉室麟(はむろりん)さんの『乾山晩愁(けんざんばんしゅう)』を読んだ。葉室さんは、表題作の「乾山晩愁」で2005年第29回歴史文学賞を受賞してデビューし、2007年『銀漢の賦』で第14回松本清張賞を受賞した新進気鋭の時代小説家。

乾山晩愁 (角川文庫)

乾山晩愁 (角川文庫)

銀漢の賦

銀漢の賦

本書は、江戸時代に活躍した絵師5人を描いた5つの短篇を収録している。

兄の尾形光琳が亡くなった後、深省(乾山)は二条家の屋敷にある御庭焼き窯の廃止が決められ、二条家へのお出入りも禁止になった…。(「乾山晩愁」)

狩野源四郎(永徳)は、織田信長の寵童・万見仙千代より、天下人のために天を飛翔する絵を描くように求められる…。(「永徳翔天」)

絵師の又四郎(長谷川等伯)は、朝倉家の一行に加えられて、武田信玄に拝謁し、肖像を描くことになった…。(「等伯慕影」)

狩野探幽の姪の娘にあたる清原雪信は閨秀画家として名が高かったが、幼馴染で同門の守清との関係を探幽の養子・洞雲益信に中傷されて、仲を裂かれることになった…。(「雪信花匂」)

絵師の多賀朝湖(後の英一蝶)は、谷中の感応寺で会った大奥の奥女中・右衛門佐から、市井に伝わる大名や旗本の噂話を伝える諜者になるように求められた…。(「一蝶幻景」)

いずれにも絵師の芸道に賭ける思いや生き様を描くばかりでなく、その時代の政治の動きや事件などを巧みに取り入れて時代性をうまく表している。「乾山晩愁」では赤穂浪士の討ち入り事件を、「一蝶幻景」では将軍綱吉時代の大奥の抗争が描かれていて、短篇にもかかわらずストーリーにダイナミズムを感じる。

また、「永徳翔天」「等伯慕影」「雪信花匂」は狩野派の絵師たちの矜持と葛藤が描かれていて、3篇を通して読むとその盛衰ぶりがより伝わってくる。

収録された5篇は、いずれも得がたい魅力にあふれる作品に仕上がっている。どの作品でもよいが、長篇で読んでみたいなと思う。

歴史文学賞 – Wikipedia

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松本清張賞 – Wikipedia

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