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娘料理人の成長と江戸の人情を描く傑作時代小説

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デビュー作『出世花』で注目の高田郁(たかだかおる)さんの新作、『八朔の雪 みをつくし料理帖(はっそくのゆき・みをつくしりょうりちょう)』を読んだ。前作では江戸の女納棺師を主人公にしたが、今回は上方・大坂から江戸にやってきた料理人の澪(みお)を主人公にしている。

出世花 (祥伝社文庫)

出世花 (祥伝社文庫)

八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)

八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)

澪は、神田明神下御台所町の蕎麦屋「つる家」で、洗い場とお運びを受け持っていた。店主の種市から料理を作ることを許されて、牡蠣の土手鍋を作るが、客は「せっかくの深川牡蠣を、こんな酷いことしやがって。食えたもんじゃねえ」と箸もつけずに怒って帰ってしまう。種市は残った深川牡蠣を殻ごと七輪で焼き、牡蠣の口が開いたところへ醤油と酒を回し入れたものを、澪に食べるように進める。これまでそうした食べ方をしたことがなかった澪だが、焼けた殻で指先を火傷しそうになりながら、はふはふと牡蠣を頬張る。噛んだ途端、牡蠣の濃厚な旨みがはじけて、うっとりと眼を細めた。澪は、つる家に来る客の求めるのはこの味だと知り、両肩をがっくりと落とした。

江戸と大坂の料理や食文化の違いばかりか、生活観・価値観の違いまで対比して描かれていて面白い。

澪は八つのときに、漆師だった父と母を大坂を襲った豪雨による大洪水で亡くし、有名料理屋の「天満一兆庵」の女将・芳に拾われ、女衆として奉公に上がり、四年目に主人の嘉兵衛にその味覚の鋭さを見込まれて、板場に入れて料理人として育てられることになる。板場の追い回しから始めて五年目。いよいよこれからという時期に、店を火事で失う。江戸店の主を任された若旦那佐兵衛を頼って、嘉兵衛と芳、澪は江戸にやってくるが、江戸店は潰れ、佐兵衛は行方知れずになっていた。落胆した嘉兵衛は度重なる心労で落命し、芳も病がちで床につく。澪は芳と神田金沢二人、町の裏長屋で暮らしながら、佐兵衛の帰りを待ち、天満一兆庵の再建を誓った…。

幾多の試練や苦境にも負けずに、健気に料理の道を進む澪の姿が感動的。彼女の周囲にいる人々の優しさや温かさも感涙モノ。

目次

狐のご祝儀――ぴりから鰹田麩(かつおでんぶ)

八朔の雪――ひんやり心太(ところてん)

初星――とろとろ茶碗蒸し

夜半の梅――ほっこり酒粕汁

巻末付録 澪の料理帖

各章のタイトルに料理名が入っているが、作中で澪の作る料理がどれもおいしそうで食べたくなってしまい、お腹がすいてくる。料理の味に加えて読み味もよい。澪の悲しい過去や彼女をめぐる人々の隠された事情などが、物語が進むにつれて少しずつ明らかになっていく構成も見事。続編の発売が待ち遠しい一冊だ。

おすすめ度:★★★★☆☆

物語の描かれている時代:文化九年(1812)霜月(11月)~文化十一年(1814)正月