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鳥羽剣豪小説の面白さを再確認

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鳥羽亮さんの『剣客春秋 恋敵』を読んだ。一刀流中西派の千坂道場主の千坂藤兵衛とその娘の里美が活躍する、人気シリーズの第五弾である。先日、第六弾の『里美の涙』が出たことで、読み逃していた本書を読むことにした。

剣客春秋―恋敵 (幻冬舎文庫)

剣客春秋―恋敵 (幻冬舎文庫)

剣客春秋―里美の涙 (幻冬舎文庫)

剣客春秋―里美の涙 (幻冬舎文庫)

料理屋の包丁人が殺される事件が起こったばかりのある日、千坂道場の門弟・吉野彦四郎の母が女将を務める料理屋華村に、以前に華村の包丁人だった盛蔵がやってきた。盛蔵は今は独立して、薬研堀近くで清富という料理屋の主人に収まっていた。娘のおたえを連れて華村を訪れた盛蔵は、華村の建て替えの金を融通するという。

一方、江戸市中にある高名な剣術道場では、袴田恭八郎なる武芸者が道場をしているという。構えた剣尖が光輪を発するといわれ、まだ袴田が姿を見せない道場は、いつ来るかと戦々恐々としていた。そして、ついに千坂道場にも…。

 袴田はすこしずつ間を狭めてきた。それにつれて切っ先の動きが迅くなり、揺れ幅も大きくなってきた。

 すると、藤兵衛の目に、その切っ先がちいさな輪を描いているように映った。目を切っ先の動きにとらわれたための錯覚であろう、と藤兵衛は思った。

(中略)

 キエエッ!

 ふいに、袴田が静寂をつんざくような気合を発した。藤兵衛の心を気合で乱そうとしたらしい。

 だが、藤兵衛は動じなかった。心を鎮め、袴田の打突の起こりをとらえようとしていた。

 と、袴田の切っ先の光の輪が、藤兵衛の切っ先の輪が、藤兵衛の切っ先をかこむようにまわりはじめた。

 ……太刀筋が読めぬ!

 籠手か、面か、それとも袈裟にくるか。藤兵衛には、袴田の切っ先の動きから打突への変化が読めなかった。

 だが、その刹那、藤兵衛の脳裏に、敵の輪を斬れ、というひらめきがあった。

(『恋敵』P.80)

「敵の輪を斬れ」、なんてかっこよい表現だろうか。剣豪小説の名手の鳥羽さんらしい、チャンバラシーンが堪能できる。

このシリーズの魅力は、男装で門弟たちと剣の修行に励む、里美の存在。池波正太郎さんの『剣客商売』に登場する佐々木三冬を彷彿させる女剣士である。性差による体格の違いからか、強すぎないために、その立ち合いシーンはスリリングである。また、年頃の娘らしい恋心も随所に表れてエンターテインメント性が高くなっている。

剣客商売 (新潮文庫―剣客商売)

剣客商売 (新潮文庫―剣客商売)

おすすめ度:★★★★☆