曽田博久さんの『孤剣の絆 同行二人長屋物語』を読む。『千両帯』『万両剣』『十両首』と続く、曽田さんの「新三郎武狂帖」シリーズのファンだが、今回は新シリーズということで、期待感を持って読み始めた。
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矢部周蔵は挽田流(疋田文五郎の流れを汲む陰流)の遣い手で元津和野藩士。十年前に竹馬の友であった堀数馬を斬り、妻の佐和と故郷を出奔する。今は江戸、下谷の坂本裏町の裏長屋に住む。寒の入りのある朝、佐和が流し台の前で倒れる。三十九歳にして、卒中風にかかり左半身が付随になり意識を失ったまま寝たきりになる。突然寝たきりの病人を抱え、1カ月半に及ぶ病人の世話に精も根も尽き果て、貧困にあえぐ周蔵に、三十両で人を斬ってほしいという依頼があった…。
病気の家族を抱える主人公というのは珍しい設定ではないが、その病人がまだ四十前の妻で寝たきり、食事や薬の世話のほかに、下の世話まで面倒を見なくてはいけない。自分も含め、中年以上の男性には同情を禁じえない、せつなくなるような設定である。とはいえ、作品を通して、そこはかとないユーモアとペーソスが漂っていて、暗くならないのがよい。周蔵と佐和の夫婦が暮らす、貧乏長屋の面々がふてぶてしく、また人情味豊かで、個性的に描かれているためかもしれない。
夫婦の姿が描かれた時代小説には弱いのだが、その点を抜きにしても心の片隅に小さな灯がともるような温かさのある作品である。続きが読みたくなるシリーズである。
おすすめ度:★★★★☆