翔田寛(しょうだ・かん)さんの『やわら侍・竜巻誠十郎 五月雨の凶刃』を読んだ。翔田さんは『誘拐児』(終戦直後を舞台にしたミステリーで時代小説ではない)で、第54回江戸川乱歩賞を受賞した、気鋭のミステリー作家。時代小説には、幕府お抱えの奥絵師・狩野探信を主人公とした捕物小説『眠り猫』がある。
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『五月雨の凶刃』は、表題どおり、想身流柔術(起倒流柔術の一派)の達人で、定町回り同心の次男の竜巻誠十郎が活躍する捕物シリーズの第一弾である。舞台は享保六年(1721)、八代将軍徳川吉宗の時代。
誠十郎は道場帰りの夜道に、背後から黒覆面の暴漢に斬りつけらる。相手の攻撃を何とかかわして、強烈な蹴りで倒すが、暴漢は倒れこんだ拍子に、自分の刀で自らの体を突き刺して死んでしまう。覆面の布を外すと、誠十郎の顔見知り、真崎京之介の顔があった。京之介は誠十郎の父と同輩の定町回り同心の子息で、その妹千恵に誠十郎は好意を寄せていた。京之介に命を狙われる理由が誠十郎には思いつかなかった。
同じころ、将軍吉宗の御用取次の職にある、加納久通は、目安箱に投じられた訴状に関連した、三通の密書を手にしてた…。
誠十郎は、久通の密命を受けて目安箱へ投じられたものの、正式には詮議にまわすことができない訴えについて、内容の真偽、吟味の必要性の有無を調べる、目安箱改め方という密命が下される…。
この作品の魅力としては、主人公の遣う柔術の技、目安箱改め方という役職の妙味、全編を覆う推理小説っぽさがあげられる。享保という時代が興味深く描かれている点も触れておきたい。竜巻誠十郎の次なる活躍を早く読みたいと願う。
おすすめ度:★★★★☆
(★:20点、☆:5点)