『華族夫人の忘れもの』が発売されたのを機に、遅ればせながら、『新・御宿かわせみ』を読んだ。江戸の「御宿かわせみ」の最終巻である、『浮かれ黄蝶(うかれきちょう)』も読んでいなかったこともあるが、登場人物たちの変貌ぶりに、幕末維新の激動ぶりを改めて感じさせられた。
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江戸の『御宿かわせみ』では時代を明示していなかったが、『新・御宿かわせみ』では明治六年の12月に、神林麻太郎が五年半におよぶ英国留学を終えて帰国し、「かわせみ」を訪れるところから、物語は始まる。読者は、この間に、「かわせみ」ファミリーに大きな悲劇に見舞われたことを知る。
慶応四年は九月で明治に改元されるが、その年の五月二十五日、お医者の麻生宗太郎の義父の麻生源右衛門、妻の七重、息子の小太郎が屋敷にいるところを賊に襲われて惨殺される。急病人の往診に出ていた宗太郎と、買い物に深川まで行っていた長女の花世だけが難を逃れる。六月三日、殺された小太郎に代わり、神林麻太郎がイギリスへ留学するために、横浜の港を発つ。その十二日後、麻生家の事件を追っていた畝源三郎は、千駄木坂下町へ向う途中の天王寺沿いで、馬に乗った何者からか短銃で撃たれて亡くなる。
また、同年八月、神林東吾が乗った榎本武揚艦隊の一隻、美加保丸は台風に遭遇し房総沖で破船沈没し、東吾は行方不明となる。
明治の「御宿かわせみ」を覆う不幸なトーンの中で、麻太郎や花世をはじめ、東吾とるいの娘で「かわせみ」を手伝う千春、畝源三郎の息子・源太郎といった、「かわせみ」の二世たちを中心に、難事件を解決していく。彼らの若さに満ちた、冒険心や好奇心、正義感や明朗さなどが魅力的で、清爽感が感じられ、次第に読む味がよくなっていく。また、欧米からの文明開化と江戸の旧習が混在された、明治の情緒が堪能できて面白い。蓬田やすひろさんの挿絵もビジュアル面から明治が楽しめてファンにはうれしいところ。
目次
築地居留地の事件
蝶丸屋おりん
桜十字の紋章
花世の縁談
江利香という女
天が泣く