シェア型書店「ほんまる」で、「時代小説SHOW」かわら版を無料配布

江戸遷都をめぐる幕府vs.朝廷の抗争

アドセンス広告、アフィリエイトを利用しています。
スポンサーリンク

南原幹雄さんの『天皇家の忍者(しのび)』を読んだ。

天皇家の忍びというと、隆慶一郎さんの『花と火の帝』に登場する「八瀬童子(やせどうじ)」を想起する。建武年間に、ときの後醍醐天皇が足利尊氏の襲撃を受けて、比叡山を越えて近江坂本への逃亡をした際に、天皇一行の輿を担いだのが八瀬の壮丁たちで、後醍醐天皇はこのときの八瀬の働きに感謝し、以後、八瀬の童子たちを駕輿丁(かよちょう。天皇の輿を担ぐ役目)に任じ、特命を与えたり、雑用に用い、免租の綸旨を与えたという。

花と火の帝(上) (講談社文庫)

花と火の帝(上) (講談社文庫)

花と火の帝(下) (講談社文庫)

花と火の帝(下) (講談社文庫)

天皇の駕輿丁にして忍者(しのび)という大役をめぐり、洛北の隠れ里に住む「静原冠者(しずはらかんじゃ)」と「八瀬童子」の間で、静かなる抗争が始まった。八瀬童子が駕輿丁を務めるようになる前は、後白河法皇の時代から、静原の冠者(若者)たちが朝廷の駕輿丁の役目を任じられていたことから、静原の住人たちにとっては復権こそが長年の宿願であった。

折りしも権勢欲に燃える将軍徳川秀忠は、朝廷を幕府の支配下に置こうと「江戸遷都」を画策。朝廷は反発を強め、静原・八瀬の抗争は朝廷・幕府の代理戦争へと発展していく…。

物語は、静原村の若者・竜王丸が鞍馬での忍術をはじめ諸武芸の修行を終えて、静原の村に戻ってきた夏に始まる。以降、彼を中心に、静原と八瀬の抗争劇がどんどんスケールアップしていくところが圧巻。何よりも魅力的なのは、秀忠の「江戸遷都」構想で、物語にスケール感を与えて、一気に読ませる。また、秀忠や後水尾天皇の描かれ方が『花と火の帝』に近くて、隆さんの作品を愛読したファンの一人として続編のような感じがして、なんともうれしい。