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寅さん化する、酔いどれ小籐次

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食欲が落ちた時期に、口当たりのよいものばかり食べたくなるように、読書欲が落ちたときには佐伯泰英の時代小説が読みたくなる。そんなわけで「酔いどれ小籐次」シリーズの第10弾『薫風鯉幟(くんぷうこいのぼり)』を読んだ。

薫風鯉幟―酔いどれ小籐次留書 (幻冬舎文庫)

薫風鯉幟―酔いどれ小籐次留書 (幻冬舎文庫)

今回、小籐次は、深川に舟で野菜売りに来るうづが、しばらく商いに来ないことを案じて、彼女の在所の下平井村を訪れた。そこで、小籐次はうずの縁談を聞きつける。寺島村の大百姓の総領息子への嫁入り話は、一見良縁に見えたが、思いもよらない謀略が潜んでいた…。

小籐次は長屋や研ぎの仕事先の人々と、「相身互い」の精神で助け合いながら暮らしている。駿太郎という幼児を抱えて、その思いがより物語の中に色濃く描かれるようになってきた。ここに来て、小籐次が中年(というよりも初老という感じか)ということもあり、自身の色恋よりは、周囲の若者たちの恋愛を応援する場面が増えている。竹薮蕎麦のせがれ・縞太郎とおきょうの窮地を救ったことから、二人の祝言の仲人になったり。今回は、娘のように思っていたうづの難儀に対して、八面六臂の活躍ぶりを示すわけだが、何やら、後期の寅さん(渥美清)のような役回りとオーバーラップする。このシリーズの人気の一端は、こんなところにもあるのかもしれない。