平岩弓枝さんの『小判商人』を読んだ。『新・御宿かわせみ』と題して明治編が始まったが、「御宿かわせみ」シリーズの33作目で江戸編で文庫化されていないのは『浮かれ黄蝶』を残すばかりとなった。一つの時代の終わりが近づき、何とも言えない淋しさがある。
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という読者の感傷を意識したわけではないかもしれないが、『小判商人』には、かつて作品に登場した人物たちが再登場している。
収録されている話は以下の通り。
稲荷橋の飴屋
青江屋の若旦那
明石玉のかんざし
手妻師千糸大夫
文三の恋人
小判商人
初卯まいりの日
「手妻師千糸大夫」では、「浮世小路の女」(『恋文心中』収録)に登場した、女講釈師の菊花亭秋月が東吾の前に姿を見せる。また、「文三の恋人」の文三は、子供の頃生き別れになった兄を探すために水売りをしていた(『佐助の牡丹』収録の「水売り文三」)が、その兄に再会し、今は庭師の修業をしている。
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表題作の「小判商人」は、『初春弁才船』に収められた「メキシコ銀貨」の続編といったところで、「かわせみ」シリーズでは珍しいスペクタクルな物語に仕上がっている。いずれも、長年のファンには何ともうれしい贈り物である。
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「さむらいの月見、
六ツから八ツの間」
という暗号の謎解きも楽しい。
安政三年に来日したアメリカの総領事ハリスは通貨の同種同量の交換を主張し、幕府はやむなく、それを許容することになった。
つまり、金貨は金貨同士、銀貨は銀貨で重さを基準にして交換するという、貨幣の品位を全く無視したもので、その結果、メキシコ銀貨はまぜものが多く、純銀度は日本の一分銀一枚とほぼ同じだというのに、重さは七・二匁、従って、一分銀の重量二・三匁の三倍強となるので、メキシコ銀貨一枚に対して一分銀三枚の交換が行われることになっていました。
その結果、メキシコ銀貨を一分銀に交換し、それを小判に両替することで、おびただしい金が日本から流出することになった。
(『小判商人』P.220より)
幕府は外国人が洋銀を持ち込んで一分銀、さらに小判に両替することを禁じたが、その禁令を破って高額の手数料をとって小判に替える闇の両替人が「小判商人」である。物語の背景であるが、このテーマを描いた経済時代小説の傑作に、佐藤雅美さんの『大君の通貨―幕末「円ドル」戦争』がある。
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