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貧乏剣術道場の師範代の日月抄

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乾荘次郎(いぬいそうじろう)さんの『介錯』を読む。『妻敵討ち』『夜襲』に続く、貧乏剣術道場・柳花館の師範代・高森弦十郎が活躍する人情時代小説「鴉道場日月抄(からすどうじょうにちげつしょう)」シリーズの第三弾である。

介錯 鴉道場日月抄 (講談社文庫)

介錯 鴉道場日月抄 (講談社文庫)

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夜襲<鴉道場日月抄> (講談社文庫)

主人公の弦十郎は、病床にある師の広川柳斎に代わり道場を守る師範代。正義感が強う熱血漢で、困っている者がいるとほうっておけない人情家。いつも、擦り切れた稽古着に木剣を差し、裸足で道場のある傳通院界隈を闊歩する。

弦十郎は、師の薬を取りに小石川片町の医師を訪ねての帰り道、水戸藩上屋敷裏の道で、三人の武士に囲まれて斬りつけられた無腰の男女三人を助けた。助けられた男の一人は奥州二本松丹羽家浪人小沼富次郎といい、長崎へ行って蘭学を学ぼうとしているところで、中間と下女をともなっていた。富次郎の中間が武士に斬られて大怪我を負っているので、三人を道場に連れて帰り、傷が癒えるまで住まわすことに…。

富次郎が福井藩の橋本左内に弟子入りし蘭学を学ぶことになる。物語は、安政の大獄の時代で、歴史の激動に、弦十郎や登場人物たちが巻き込まれていくところが、見どころの一つか。貧しくても恬淡としている弦十郎を金銭面などで支援する道場仲間で小浜藩留守居役輔佐の山路鉱之助が重要な役割を演じる。「落魄の剣客」に登場する、道場の大先輩、島川伝内も印象的なキャラクターだ。

乾さんは、鳥居耀蔵の晩年を描いた短篇『孤愁の鬼』でデビューした、今後注目したい時代小説家の一人だ。

孤愁の鬼 (広済堂文庫)

孤愁の鬼 (広済堂文庫)