伊藤致雄(いとうむねお)さんの『蜻蛉切り』を読んだ。幕府目付の天童兵庫と南町奉行所定町廻り同心の本山伊織のコンビが活躍する捕物小説「兵庫と伊織の捕物帖」の第二弾である。第一作の『吉宗の偽書』がスケールが大きく伝奇色もある傑作だったので、期待していた。
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ご法度である闇金融を営む深川の金蔵寺の竜浄のもとに、春日町で仏具商を営む卍屋の主人と名乗る男が現れた。鎌倉時代の著名な仏像彫刻師である運慶の掘出物が出たので五百両都合して欲しいとのこと。家康の功臣、本多平八郎忠勝の末である名家で、大身旗本の本多盛勝の紹介状を持っていたため、信用した竜浄は金子を用立てた。だがそれは詐欺だった…。
「蜻蛉切り(とんぼきり)」と聞いて、ピンとくる方は相当な戦国時代通だと思う。ウカツなことに読み進めるまで、タイトルの意味がわからなかった。
「家康に過ぎたるものは二つあり、唐のかしらに本多平八」と狂歌の落書で賞賛された逸話のある本多平八郎。その平八郎が用いた名槍の銘が「蜻蛉切り」である。室町時代の刀工村正の作といわれ、穂先に止まった蜻蛉が真っ二つに斬れたという逸話からこの名が付いたという。