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冬の通勤にピッタリ、じんわりと心が温もる市井小説

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今井多美子さんの『寒雀』を読む。武士を捨てて、照降町の書役を務めるようになった喜三次を主人公とする市井小説シリーズの第二弾である。

第一話 後の月

喜三次は、下っ引きの文治が博打絡みの揉め事で、三人の賭場の三下に殴られたという話を聞く。また、太物商の番頭からは文治がたかりにくると苦情を持ち込まれる。文治が銭を欲しがったのは…。

第二話 ででふく

魚竹の竹蔵がひいきにしている居酒屋のお多福。女主人のおてるの作る料理が絶品で、客足が途絶えたことがない。「あたしは<でででふく(お多福)>ですから……」と卑下するおてるはには、心の疵があった…。

第三話 大風のあと

お高祖頭巾を被った三十絡みの女が木戸番小屋の柱に身を預けるようにして、髪結床猫字屋の油障子を窺っていた。木戸番の女房おすえが不審に思い声をかけると、女は、こちらに十五、六の女の子はいないかと訊ねた。猫字屋の娘おけいは十六歳で生後1カ月で猫字屋の前に捨てられた娘だった…。

第四話 寒雀

自身番の店番を務める仙三は、正月二日の勤務を終えて、もらった二つのお節の重箱を抱えて長屋に戻った。長屋には、幼なじみの作次が病の床に伏せていた…。

前作『雁渡り』は、自身番に持ち込まれる事件を解決する喜三次の活躍ぶりと、自身番に集まる人物たちを紹介していった、いわば顔見世興行てきな作品になっていた。2作目にあたる今回は、喜三次がなぜ武士を捨てたのか? その秘められた過去が明らかになる。また、髪結床猫字屋の主・おたみ、三人の子どもたち(佐吉、およし、おけい)、魚竹の竹蔵、その娘おゆき、住吉町の銀造親分、木戸番のおすえ、大家の惣右衛門、店番の仙三と寅蔵など、登場人物たちのキャラクターがはっきりしてきて、人情味あふれるそのチームワークがたのしい。

雁渡り

雁渡り

タイトルと装画を見ただけでは、寒いこの時期に手を出すのははばかられるような本だが、心温まる作品に仕上がっている。

おすすめ度:★★★★☆