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お鳥見女房の珠世さんに癒される

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諸田玲子さんの『鷹姫さま お鳥見女房』を読む。お鳥見役の女房で四人の子どもたちの母親でもある、珠世をヒロインとした、連作時代小説の第3弾。

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鳥見役の裏の任務である隠密の役目を果たして帰還した夫の伴之助は、心に傷を負い、以前の夫とは変わっていた。長女の幸江は小十人組の家に嫁ぎ一男をなしているが、次女の君江は嫁入り前で密かに恋を育んでいた。次男の久之助の身の振り方も気になるところ。そんな折に、嫡男久太郎に縁談が持ち込まれた。相手は女だてらに鷹狩りに参加し、「鷹姫さま」と呼ばれる気性の激しい娘、しかもこの縁談は老中水野越前守忠邦のお声がかりという…。

このシリーズの見どころは、お鳥見の家の主婦・珠世を中心とした矢島家の家族模様を情感豊かに描いているところ。珠世の夫と子どものほかに、同居する元鳥見役で珠世の実父・久右衛門やかつて矢島家に居候していた浪人の石塚源太夫とその女房の多津、五人の子どもたち(里、源太郎、源次郎、秋、雪)が加わり、何ともにぎやかで楽しいホームドラマになっている。諸田さんが家族を描くことに達者なのは、かつて向田邦子さんのドラマのノベライズをしていたことにもよるのかもしれない。

「辛い思いもいたしました。ですがわたくしは、御鳥見役の妻となって不服に思ったことは一度もありません」

(『鷹姫さま お鳥見女房』P.91)

「主どのはひとりで悩み、黙々とお役目に励んでおられます。さぞやおっしゃりたいことがおありでしょうに。そう思うと痛ましくてなりません」

…(中略)…

「おやまあ、つい弱音を吐いてしまいました」

 娘たちが二人見ているのに気づいて、珠世はえくぼを浮かべた。

「何事も一朝一夕にはゆきません。なれどよくはなってもわるくはなりませんよ。源太夫どのみ、主どのも。そう思えば心配も吹き飛ぶでしょう」

 明るく言う。

楽しいことばかりでなく、辛い思いもいろいろ経験してきたにもかかわらず、物事の明るい面をみて、人のいい面を見ようとする珠世さん。登場人物の一人が「珠世さまのその笑顔はなによりの宝ですよ」(P.119)と言っているが、読者であるわれわれも珠世さんによって癒されていく。読後に何とも言えない心地よさが残る。

作品の後半では、ある婚礼のシーンが感動的に描かれ、物語にしみじみとした味わいを与えている。型破りでチャーミングな「鷹姫さま」と人一倍真面目でやさしい久太郎の関係が今後どうなるか興味深いところ。