佐伯泰英さんの『竜笛嫋々』を読んだ。「酔いどれ小籐次留書」シリーズの第八弾である。酔いどれの中年(五十過ぎで江戸時代は老年に近い)の赤目小籐次が活躍する人気時代小説。来島水軍流の剣の達人で、風貌からは想像できない颯爽とした活躍ぶり、市井の人々との温かい交流、主君への忠義など、読み終わるとスカッとする大好きなシリーズの一つである。
- 作者: 佐伯泰英
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/09
- メディア: 文庫
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今回は、赤目小籐次が思いを寄せる、大身旗本水野監物家に勤める奥女中のおりょうに、縁談話が舞い込むところから物語は始まる。縁談相手は高家肝煎・畠山頼近で、この話に違和感を抱くおりょうは、小籐次に頼近の素性調査を依頼する。そんなある日、おりょうは謎の手紙を残して失踪する…。
白面の貴公子・祭文高道が率いる謎の集団・山城祭文衆や読売屋のほら蔵など、新しい登場人物もあり、佐伯さんらしい読者サービスに満ちた、楽しめる一編になっている。
「ご先祖方の商いの風景と暮らしぶりが刃の向こうに見えるようにございますよ」
「百年の時に隠されておったものが見えますか」
「徳川家康様が幕府を開かれた当時の江戸は、入り江に沿った岸辺に葦原が繁っていたと聞いたことがございます。それを御城普請の太田道灌様方は、御茶ノ水の台地を崩して葦原に埋め敷き、平地を十坪二十坪と増やしていったそうな。江戸城と城下の建設は、各大名方を競わせて短い歳月で完成にこぎ付けたと聞いておりますが、工事目当てに諸国から浪々の士や渡り職人が多く入り込んで、夜中になるとあちらこちらで悲鳴が絶えなかったとも聞いております。そんな殺伐としながらも活気のあった時代の空気をこの大刃は映して、なかなかの業物にございますよ」
(『竜笛嫋々』p.268より)
上記の引用箇所は、小籐次と紙問屋久慈屋の大番頭観右衛門の会話だが、観右衛門の江戸城築城の説明が読者に誤解を与えそうな感じがする。
太田道灌は江戸城を築城したことで知られるが、その生年は永享4年(1432年)で没年は文明18年7月(1486年)であり、家康が幕府を開くおよそ150年前の武将である。なお、家康のもとで新しい江戸城の設計にあたったのは藤堂高虎といわれている。半村良さんの『江戸打入り』では、天正十八年の徳川家の江戸打ち入りの様子が描かれていて面白かった。
- 作者: 半村良
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1999/12
- メディア: 文庫
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