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深川が舞台にした大長編市井小説

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江戸深川を舞台にした市井小説は多いが、富樫倫太郎さんの「すみだ川物語」のように3巻(『宝善寺組悲譚』『切れた絆』『別れ道』)で構成される、大長編のものは珍しい。ページ数が多い分、隅田川(作中では「すみだ川」となっている)沿いの裏長屋で暮らす貧しい人たちの生活ぶりがしっかりと描かれている。

切れた絆―すみだ川物語〈2〉 (中公文庫)

切れた絆―すみだ川物語〈2〉 (中公文庫)

十五歳のお結は、弟の善太と日雇取りの父・慎吉と3人で深川富久町の裏店で暮らしている。貧しいながらも、親子三人幸せな日々を送っていた。そんなある日、慎吉が吐血し医師からは余命3ヶ月と言われる。余命を知った慎吉はお結に、自分がかつては非常な盗賊であったことを告白する。

一方、お結の幼なじみの健吉、寅太郎、伊之助、丑松、三太、忠助、お咲らは、子どものころに宝善寺の境内を遊び場に育った仲間として、「宝善寺組」と名乗り、今でもよく集まって親しく交流していた。そんな中で、寅太郎や伊之助らは、貧乏な生活から抜け出すために、闇の仕事を手伝うようになった…。

物語は、お結を中心に、慎吉の過去とお結の秘密、家族愛、「宝善寺組」の若者たちの恋と青春を情感豊かに描いていく。また、かつて盗賊だった過去を持つ慎吉の前に、岡っ引きの七蔵が現れるところから、サスペンス度が高まり、長編でありながらも一気に読ませる。

悲劇性や生活の貧しさ、闇の部分などを全編で感じさせながらも、暗かったり重たい感じがせずに読み味がよく読後の印象もよい不思議な作品である。富樫さんのほかの作品も読んでみようと思っている。