浅黄斑(あさぎまだら)さんの『残月の剣』を読んだ。越前大野藩の藩士落合勘兵衛を主人公にした「無茶の勘兵衛日月録」シリーズの第三弾である。幼い頃から無鉄砲な行動が多くて、「無茶の勘兵衛」と呼ばれた、越前大野で知らぬ者がいないという落合勘兵衛は、前作の『火蛾の舞』より江戸に出府している。
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その勘兵衛が行き倒れの浪人風の男、百笑火風斎(どうめきかふうさい)を助けたところから物語は始まる。火風斎は、林崎甚助を祖とする神明夢想流の流れを汲む伯耆流の遣い手で、吉野天河郷の位衆傳御組(いしょうおとなぐみ)という南朝を守り味方する一族であった…。
このシリーズの魅力は19歳の若者、勘兵衛がさまざまな事件を通して成長していくストーリーと、最近の時代小説では描かれることが少ない江戸前期を舞台にしている点である。寛文十三年・1673年)というから、四代将軍家綱の時代。浄瑠璃坂の仇討ちが寛文十二年に起こっている。
浅黄さんは「江戸方角安見図」や「江戸城下変遷絵図集」などの資料を参考に、このシリーズの中で、江戸の地理を書かれていて、興味深い。